廃棄漁網を衣料へアップサイクル・漁網アップサイクルプロジェクト

プラスチックは、手軽で耐久性に富み安価に生産できることから、洋服や自動車・建築資材など多くの製品に使用される以外にも、ビニール袋や発泡スチロールなどの梱包材、緩衝材や容器などに幅広く使用されています。

このようなプラスチックは使い捨てにされ、捨てられて適切に処分されなかったものは海に流出し、海洋汚染の原因となっています。

このようなプラスチックごみの中でも、特に海の生物に深刻な影響を与えているのが、「ゴーストギア」と呼ばれる放棄、逸失、投棄され海に流出した漁網などの漁具です。

現在、このようなゴーストギアとなることもある廃漁網を、アップサイクルして衣料として再利用するという取り組みが始まっています。

ここでは、廃漁網をはじめとしたゴーストギアが環境に与える問題と、廃漁網をアップサイクルし海の豊かさを守るための取り組みについて解説していきます。

ゴーストギアが海の生き物と人間社会に及ぼす影響

ゴーストギアは、海洋生物に致命的な影響を与えるプラスチックごみです。

流出したゴーストギアは何十年たっても分解されることはないため、動物がそれに絡まり死亡するケースが後を絶ちません。

このような本来漁具で獲る必要のない生き物を獲ってしまう「混獲」の犠牲になる海の野生生物が非常に多く存在します。

ゴーストギアは資源として価値がある生き物の命も奪ってしまうため、その分人間は資源を失っており、経済的損失を被っています。

また海洋航行の際に障害物となり船舶の推進力や操作性を妨げ、運航を遅延させるといったこともあります。

また、美しい自然の景観を損なうため、観光資源としての価値を低くしてしまうことも考えられるのです。

漁網のアップサイクルにまつわる問題

漁網の使用期間は1年から40年と漁業の種類によって大きく異なり、多くの漁業種類では撚糸等で補修しながら使用し続けます。

そして役目を終えた漁網は処分されることになりますが、漁網は産業廃棄物として扱われるため、簡単に捨てることができません。

そしてその処分の多くは、埋め立てとなっています。

このような方法を続けることは、現在世界が目指す循環型社会を実現するための努力に逆行しています。

そのため漁網を何らかの形でリサイクルまたはアップサイクルする必要が出てくるのですが、それには困難が伴います。

漁網を再利用するためには廃棄漁網をキューブ型に圧縮し運搬するのですが、その前に丁寧に洗浄する必要があります。

そして裁断し、溶かしてチップ状にする工程に進みます。

そして出来上がったチップを溶かし糸にしたら、複数本を撚り合わせようやく繊維として使用するスタートラインに立つことができます。

このように廃漁網を再利用するためには、多くの手間と人手がかかりこれがネックとなっていました。

しかし、「廃漁網をアップサイクルした製品」であるということは、その製品に付加価値を与えるでしょう。

廃棄漁網を製品材料として再利用する際にマテリアルサイクルの手法を採用することで、環境負荷を低く押さえることができます。

一方、リサイクル業界で多く使用されている手法はケミカルサイクルというもので、化学や熱を利用して廃棄魚を分解し、他の化学物質に転換する方法です。

ナイロンの種類が異なっていたり汚れが完全に落ち切っていなかったりする場合でもリサイクルを行うことが可能ですが、処理を行う工程で熱加工を行うため二酸化炭素を排出してしまいます。

そのため、環境に負荷かける負荷が少ないマテリアルサイクルで廃棄漁網の再利用を行うことが望ましいのですが、この方法を採用するためには手間と時間をかける必要があるという現状があります。

グローブライドが取り組む漁網アップサイクルプロジェクト

グローブライドは、ビギナーからプロまで世界中の幅広い釣り好きの方から信頼を寄せられている「DAIWA」というフィッシングブランドを展開しています。

このDAIWAはフィッシングを楽しむための重要な要素のひとつであるアパレル製品の開発にも力を入れています。

このDAIWAには2017年にD-VECを誕生させ、表参道ヒルズなどに直営店を構える以外にも、ファッションの祭典であるRakuten Fashion Week TOKYOへ参加するなどのことから、業界からもさらに注目されるようになりました。

グローブライドは「フィッシング」を事業の軸にしているため、主たるフィールドである川や海に特別な思いを抱いています。

そのためアパレル関連としては、海洋汚染の改善につながる環境対応商品「レスマイクロプラスチックフリース」を用いた製品を開発しました。

そしてさらなるサスティナビリティの強化を目的にスタートしたのが、2021年から取り組んでいる漁網アップサイクルプロジェクトです。

不用になった漁網を使用して、漁業関係者が着るワークウエアをはじめとして一般ユーザー向けのTシャツやジャケット、パンツ等の企画と生産を行っています。

この衣類には、前述したマテリアルサイクルという手法を採用して作られた、リアミドという複合再生樹脂を使用しています。

廃棄漁網を鞄にアップサイクル

廃棄漁網を鞄にアップサイクルするという方法もあります。

日本財団は2020年7月に海洋プラスチックごみ対策を目的として、複数の企業が協働するためのプラットフォーム「ALLIANCE THE BLUE」を結成しました。

このプラットフォームは石油化学、素材・消費材・包装材メーカー、小売企業、リサイクル企業など、プラスチックバリューチェーン構成する多岐にわたる業種の企業とともに、海洋ごみによる自然への負荷を軽減するための商品開発や共同研究、社会実験に取り組んでいます。

そして2021年、廃棄漁網を再利用した鞄の発表会と展示会を開催しました。

この鞄は、元環境大臣である小泉進次郎氏も愛用しているとのこと。

今回この鞄を製造したのは、兵庫県豊岡市を拠点とする地域ブランドの「豊岡鞄」です。

豊岡では学生鞄も多く製造されているため、廃棄漁網を利用したスクールバックを学生たちが使うことで子どものころからSDGsを身近に感じ、物を大切にする習慣が身につくのではないかと兵庫県鞄工業組合の由利理事長は語っています。

まとめ

廃棄漁網の処理は産業廃棄物として埋め立てるという方法が一般的ですが、その原材料のプラスチックは自然に分解することはないため地中に残り続け、海に廃棄されたものについては半永久的に海中を漂い続け海洋生物の脅威となります。

漁網を適切に処分することも重要ですが、大量生産・大量消費されていくプラスチックをどのように再利用していくかは大きな問題となっています。

この問題を解決するためには、産業廃棄物として処分されていた廃棄漁網を、手間暇はかかりますが環境に負担が少ない方法で線維化するなどの方法でアップサイクルしていくことも、その方法のひとつとなるでしょう。

このような方法で廃棄漁網をアップサイクルすることは、SDGsの目標14海の豊かさを守ろうを実現するだけではなく、目標12つくる責任つかう責任の達成にも寄与するものです。

衣類や鞄等を購入する際には、その原材料がどこから来たものなのか、何に由来しているものなのかについて考えてみるのも、楽しいことになるかもしれません。

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