以前は、使わなくなった自動車はお金を払って処分してもらうことが一般的で、その後業者に引き渡した自動車がどうなっているのかについて関心を持つ人はほとんどいませんでした。
しかし、現在ではさまざまなものがリサイクルの対象となっていて、自動車もそのひとつです。
時には鉄くず同然の自動車であっても、低い金額ではありますが買い取ってくれる業者が多くなってきた理由は、古い車の価値が高まったためです。
その理由は、自動車のリサイクルの技術の進歩にあります。
古い車は、中古パーツや鉄くずだけではなく、新しい製品を作るためのリサイクル原料としての価値を持つようになりました。
ここでは、自動車をリサイクルする際の作業工程と、リサイクルを安全かつ確実に実施するためのルールについて解説していきます。
自動車をリサイクルする工程
自動車のリサイクルは、以下のような工程で行われます。
購入時にリサイクル料金を支払う
自動車の価格は、自動車本体の価格以外にさまざまな料金が加算され、実際に支払う金額は自動車の本体価格よりも高額になります。
この本体価格に加算される料金の中に、自動車リサイクル料も含まれます。
使わなくなった自動車を自動車リサイクル業者に引き渡す
自動車も愛好家にコレクションとして扱われるもの以外は、消耗品です。
ある程度の距離を走ったり、時間が経ったりして劣化が目立ったりしてくると、見た目だけではなく燃費や時には安全上の問題が出てきます。
そのような場合には、自動車を手放す必要がありますが、このときに持ち込むのが自動車リサイクル業者です。
自動車リサイクル業者で解体しパーツを選別
自動車リサイクル業者では、自動車を解体しパーツごとに分けます。
分けられる部品は、以下のようなものです。
エンジン
自動車のエンジンにはエンジンオイルが入っているため、これを抜き出して処分します。
自治体によっては、可燃ごみとして回収してもらえるところもあり、ガソリンスタンドなどで引き取ってもらえるケースもあります。
そしてエンジン本体は、壊れていなければ中古パーツとして再利用され、それが難しい場合には資源として再利用されます。
ドア
自動車のドアは、傷などがなくきれいな状態であれば中古のパーツとして再利用されます。
中古パーツとしての再利用が難しい場合には、鉄、ガラス、プラスチック、ゴムなどの素材ごとに分別され、状態や種類により資源として再利用されたり廃棄されたりします。
トランスミッション
トランスミッションは、機能に問題がなければクリーニングが施され、中古のパーツとして再利用されます。
それ以外の物は、資源として再利用されます。
エアバッグ類
エアバッグは、インフレータ(ガス発生機)を取り外し、残った部品の中の金属は資源として再利用され、それ以外の部分は燃料として活用される部分もあります。
インフレータは、取り扱いが難しいためエアバッグ専用処理施設で処理を行わなければなりません。
また、取り外したエアバッグ自体は未使用の物であっても、中古パーツとして使用したり販売したりすることは法律で禁じられています。
フロン類
カーエアコンに使用されているフロン類は、「第一種フロン類重点回収業者」という都道府県の登録業者に回収してもらう必要があります。
回収後にはフロン類が使用されていた機器が残るので、こちらはできる限り資源として活用します。
その他プラスチックやゴム
残ったプラスチックやゴムのうち、プラスチックはリサイクルされもう一度プラスチック製品として生まれ変わるものもあれば、燃料となるものもあります。
ゴムはリサイクルが難しい素材なので、今までは焼却されることがほとんどでしたが、徐々にゴムのリサイクルに関する研究が進んでいるため、今後はさらにリサイクル率も向上していくでしょう。
その他金属
中古パーツとしてそのまま利用できない部品は分解され、そのうち金属はプレス機で圧縮された後にシュレッダーで粉砕されます。
粉砕された金属は磁石で鉄と非鉄金属に分けられ、さらに色や比重で分別されます。
このような工程を経て、鉄は鉄鋼メーカーに送られ、非鉄金属は原料として再利用されます。
適正なリサイクルのために導入された自動車リサイクル法
以前、使用済みの自動車は有用な金属や部品を含んでいるため、解体業者や破砕業者が売買を行い、流通するという形でリサイクルされていました。
しかし、金属やパーツとして再利用された後に残るシュレッダーダストと呼ばれるものを処分するために、埋め立て処分場が足りなくなるという状態にまでなってしまっていたのです。
シュレッダーダストとは、車を破砕した後に残るガラスやプラスチック、ゴム、繊維などです。
また、そのころにはフロン類の適切な処分方法の周知がなされていなかったため、フロンによる環境破壊も進んでいる状態でした。
そのような状況を改善するため2005年に始まったのが、自動車リサイクル法です。
この法律では、フロン類、エアバッグ類、シュレッダーダストを自動車メーカーや輸入業者が引き取り適切に処分するように定められ、その費用の一部を自動車の購入者が負担するという仕組みが生まれたのです。
この自動車の購入者が負担する費用が、自動車を購入するときに自動車本体価格に上乗せして支払う「リサイクル料」です。
自動車はリサイクル前提で作られている
現在、自動車メーカーは「自動車はリサイクルされるもの」と想定して設計や製造のが行われています。
そのため中古パーツとして利用される確率が高い部品は、分解しやすく設計されるようになりました。
これは、もちろん走行時の安全を損なわないという前提のもと行われています。
また自動車の部品に使用するプラスチックも、リサイクルしやすいものが使われています。
このような取り組みが進んできているため、新車を製造する際にはリサイクル素材が使われるケースもあります。
持続可能性を車の付加価値に
今までの自動車を選ぶ際には、見た目や走行性、価格や燃費などの経済性が重視されてきました。
しかし現在では自動車メーカー自体が、自動車の持続可能性を高める努力に力を注いでいます。
そう遠くない将来には、車選びの基準のひとつに「持続可能性」という項目が増えるかもしれません。