元来、自然界には「廃棄物」という概念が存在しません。何かが何かの資源と活用され続けられる完璧な仕組みが備わり、半永久的に循環してきました。
しかし、近代化以降、人間が自然界に存在しない人工物を増産し続けた結果、行き場を失った廃棄物が自然界にも人間社会にも無視できないレベルで地球を埋め尽くす事態を招いています。ここでは環境先進国オランダで登場した「廃棄物のマッチングサイト」を題材に、サーキュラーエコノミー社会へのヒントを模索しましょう。
2050年、廃棄物は約34億トンに達する
資源枯渇のスピードは年々早まっています。国際NPOグローバル フットプリント ネットワークが定める「1年間で人類が消費する資源が、地球が生産可能な資源を上回ってしまう日」を意味するアースオーバーシュートデーは2021年7月29日。
国単位で見ると、日本は5月6日と全体平均を2ヶ月以上も早く上回るハイペースです。すなわち、1年分の資源を5月上旬には消費し尽くすため、残り期間は将来に備えてストックしておくべき資源を切り崩す「借金状態」で過ごしています。
今後も猛スピードでの消費が続くと、地球2.8個分の資源がないと持続可能な暮らしを維持できず、その代償は私たちの子供や孫世代へと重くのし掛かることになるでしょう。
消費のスピードに加えて、廃棄物が地球を埋め尽くす量も年々増えています。世界銀行グループの報告では、世界で排出される廃棄物の量は年間約20億、2050年には約34億と1.5倍量にまで達する見込みです。
資源の再利用を促す「廃棄物のマッチングサイト」
地球上の資源を搾取して、作っては捨てる一方通行型のリニアエコノミーの限界は周知の通りです。すでに環境意識の高いEU諸国では、資源の消費を最小限に留めて、大量に捨てられる廃棄物を資源価値に変える新しい経済モデルへの移行が顕著化しています。
そうしたサーキュラーエコノミー型の仕組みで、オランダの行政、企業、金融機関の新たなネットワーク網を張り巡らせて社会課題を解決する企業が、2016年創業の「Excess Materials Exchange(以下、EME)」。
EMEは、ブロックチェーンとAI最新といったデジタルフォーメーションの技術を駆使したアムステルダム発の廃棄物マッチングプラットフォームです。いわゆる、廃棄物を捨てたい人と欲しい人を結びつける「廃棄物の中古市場」になります。
EMEの強みはブロックチェーンを活用した業界横断型のプラットフォームである点。特定の業界や領域に特化せず能動型のマッチングを図る革新的な技術とアイデアで、既存のプラットフォームとの差別化を測っています。
同じ形態や業種から見ると単なる廃棄物にすぎなくとも、異業種の事業者にとっては経済価値の高い資源である事例はよくあるもの。EMEでは、廃棄物の処理方法に関する情報を企業や行政から収集。廃棄物とそれを資源として再活用できるノウハウや技術を持つ事業者をマッチングする調整役を果たすことで、他社にないユニークな実績を積み上げています。
さらに、EMEでは資源の活用アドバイスや、資源として活かせるポテンシャルを持つ幅広いセクターや分野に提案するコンサルティング業務を展開。「Resources Passport」と呼ばれる、素材にアイデンティティーを与えて特徴や状態、仕入場所、販売後のメンテナンスや社会環境へ負荷といったあらゆる情報をサプライチェーン上に携わるすべての登録事業者と共有できる仕組みを構築することに成功しています。
既存マーケットに存在しなかった”素材のデータベース化”の構築によって、廃棄予定の素材を環境負荷を抑えながら、経済的な価値へと繋げる「廃棄材のマッチング市場」という全ステークホルダーにメリットをもたらす循環型のビジネスモデルを誕生させました。
EMEではすでにフィリップス、スキポール空港、オランダの鉄道会社プロレイル、アムステルダム市といった行政、大手企業と提携。最新技術を駆使した廃棄物管理の手法で、2017年には「Accenture Innovation Awards」、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)の「MIT Technology Review」や「Innovators Under35 from Europe」にも選出されています。
エクセス・マテリアル・エクスチェンジ 4つのステップ
EMEは大きく分けると4段階のステップを通してアプローチできます。
【STEP1】リソース・パスポート
廃棄物の取引には、情報の信頼性がなにより重要です。現在流通するほとんどの製品は、複数の素材や化学物質が混在して複雑化しています。一度市場に流通すると、原材料となった物質や素材、加工に関する情報が不透明となる状況も、再活用を困難にする要因でした。
EMEでは高い機密性と透明性を保ちながら、QRコードやブロックチェーン技術の駆使でこれらの問題を解消することに成功。全商品の原材料から使用期間、認証の有無、環境負荷といった情報までを記録し、客観的な情報に誰もがアクセスできるデジタル記帳システムを作成してマーケットプレイスで公開しています。
【STEP2】トラッキング・トレーシング
市場流通後や後世の人々が、容易に情報へアクセスできる機能を実装する追跡ステップです。STEP1で作成されたデジタル情報を、QRコードやバーコードで読み取れるよう個別製品へ付与します。
【STEP3】評価観測
特定の廃棄物が資源として再活用された場合に、経済や社会、環境といった各方面からのインパクトを測定するフェーズです。測定評価の項目には、CO2エミッションの削減や地球資源に関する環境面以外にも、新規事業による雇用機会や利益の創出といった経済的視点も含まれます。
【STEP4】マッチメイキング
上記3つのステップで得たデータを元に、廃棄物を資源に活用するマッチングを図る最終ステップ。経済効果や環境負担を抑制するインパクトが高い、リデュース>リユース>リサイクルの優先順位順にマッチング候補を絞り込んでいきます。今後はAI活用で、素材マッチングが加速する予定です。
廃棄物から利益を得られた具体的事例
「Fruit Leather Rotterdam」は廃棄予定のマンゴーなど果物の皮から、ヴィーガンレザーへと加工するロッテルダム発のスタートアップ。EMEとの提携によって、市場に出回らない廃棄される規格外フルーツのさらなる効率的な調達を実現しています。
毎年世界で廃棄される食品は約13億トン。生産された量の3分の1が捨てられる現状を脱却したいとの願いを込めて、靴やファッションアクセサリーに使用するフルーツレザーを考案。アニマルウェルフェアが加速する昨今、動物由来の革製品に代わり植物由来のエコフレンドリーなレザーは今後ますますニーズの高まりが予想される成長領域です。
EMEとの提携で廃棄物を資源価値に変えた事例は他にもあります。オランダを代表する特産品のひとつ、最盛期を終えた大量の廃棄チューリップを顔料へと変えるビジネスや、フードサービスを提供するソデクソでは社食で提供するオレンジの皮をバイオガスに変えるといった独自のアイデアでゼロウェイストを実現させました。
今後特に期待される廃棄物が「オーガニック」「繊維」「建築」といった領域です。例えば、コーヒーショップや清涼飲料水工場から排出される有機性廃棄物の「コーヒー粕」。
日本国内で年間45万トンで推移、コーヒー粕の排気量は同等の水分を含むため90万トンにも達しています。
すでにスターバックスジャパンやUCC上島珈琲店では、飼料化や肥料化でコーヒー粕を持続的に循環させるサスティナブルな取り組みを実施。コーヒー粕を生産エネルギーとするバイオマス利用や、コーヒー粕を醸造した培養土といった幅広い分野でも、食品資源循環の取り組みを継続しています。
一方、再資源化率の高いコーヒー業界でさえ、需要と供給のミスマッチによる廃棄物が依然として生じているはずです。
「SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を」
上記目標の達成に向けて、従来の取り組みにEMEのようなデジタルフォーメーションの力を掛け合わせることで、さらなる合理的な資源循環の仕組みづくりやサーキュラーエコノミー躍進への寄与が期待されています。