日本が「アニマルウェルフェア」の向上に取り組むべき2つの理由

エシカル消費の台頭に伴い、動物との共生や畜産のあり方に関心が集まっています。

世界より50年遅れていると揶揄される日本のアニマルウェルフェア(動物福祉)。世界動物保護指数(the Animal Protection Index)によると日本はEランク、アジア圏では中国やインドネシアと並んで低評価。「残虐性のある畜産技術」「動物園やサーカスといったレクリエーション用途の動物の保護」といった項目では最低評価のGランクを受けています。

動物愛護管理法の見直しが進む潮流において、特に見放されているのが「畜産動物」。畜産業界で蔓延している虐待や劣悪な環境下での飼養、膨大な抗生物質の投与といった悪しき慣習の見直しは、私たちの健康にも直結する喫緊の課題です。

欧米では近年アニマルウェルフェアの向上がどんどん重視される傾向にあり、その重要性に気づいていない日本の畜産業界は世界での存在感を失うリスクに晒されています。

ここではなぜ今、日本がアニマルウェルフェアに取り組むべきなのか、その理由と解決に向けたヒントを解説します。

アニマルウェルフェアとは?

「動物福祉」とも訳される「アニマルウェルフェア」。すなわち、感受性のある生き物として家畜達により寄りそう、生涯をかけて苦痛やストレスを最小限度にとどめる、行動要求が満たされる健康的な生活をめざした畜産方法のこと。古くより宗教観から動物愛護の精神が深いヨーロッパで生まれた考え方です。

そもそも現代のEUにおける動物福祉政策は、1960年代に社会問題となった非人道的な集約的畜産への反省から発展したものです。動物の心身の健康を損なう、抗生物質や抗菌剤の使用、劣悪な飼育環境が深刻化した結果、動物由来の感染病の蔓延や食の安全性、家畜衛生の重要性が声高に叫ばれていきました。

1965年に英国で表明された「ブランベルの5つの自由」の中で、「すべての動物に、立ち上がる、寝る、向きを変える、毛繕いする、手足を伸ばす」自由を与えるべきと提唱されています。

こうした動物の飼育基準を策定する動きは、その後ヨーロッパ全土に普及していき、1979 年には動物福祉の理想的な状態を定義する枠組みとして「5 つの自由」が標榜され、現行の欧州や世界の動物飼育にまつわる立法の礎となっています。

5つの自由

  1. 飢え・乾き・栄養扶養からの自由
  2. 恐怖・抑圧からの自由
  3. 不快からの自由
  4. 痛み・障害・病気からの自由
  5. 本来の行動がとれる自由

動物福祉は、科学的、社会的、政治的、文化的、倫理的、経済的な側面を備えた複雑多岐にわたる課題です。現在はOIE(国際獣疫事務局)が主体となりルールを策定して、アニマルウェルフェアを厳格化しています。加盟国はそれに準拠して取り組むものの、国によってバラつきがあるのが現状です。

動物福祉後進国・JAPAN

日本でもアニマルウェルフェアの動きが浸透し始めています。1973年に制定された動物愛護法を礎に、「動物の殺処分に関する指針」や「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」が策定されるなど、畜産の海外輸出の拡大に向けて動物福祉の普及や定着が進められてきました。

しかし、日本のアニマルウェルフェアは愛玩動物、すなわち犬や猫といったペットに関する規定が中心です。畜産目的で飼養される動物や野生動物には適用されておらず、世界とのズレやSDGsウォッシュが表面化しています。
例えば、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック大会では、日本の「見せかけだけのアニマルウェルフェア」が猛烈な批判を浴びた騒動は記憶に新しいのではないでしょうか。

これは一部の海外選手や団体から、ケージ飼いされた採卵鶏や妊娠ケージで育った食用豚といったストレスフルな環境で育った食べ物を摂ることによる競技へのマイナス影響の可能性を指摘されたものです。直近2大会を見ても、ロンドン五輪では放牧、直近のリオ五輪でもケージフリーの卵と持続可能な食料の調達基準が採用されました。

ところが、東京大会では「ケージ飼育の卵」という低い基準を採用。欧米より緩い食材調達に、各方面から改善要求が突きつけられ、日本のうわべだけのアニマルウェルフェアが露呈する形となったのです。

国際鶏卵委員会によると、コスト削減や生産効率の観点から、日本では「94.2%」の養鶏場がバタリーケージと呼ばれる集団飼育方式を採用しています。

一方で、世界の畜産現場ではアニマルウェルフェアに配慮した「ケージフリー」や「ストールフリー」と呼ばれる健康的な飼養方法のオプションも増えてきました。一般消費者への認知も極めて高く、多少値段が高くても倫理的にはぐくまれた食材を手にしたいという消費者ニーズの高さを物語っています。

日本国内を見ると、アニマルウェルフェアの正しい理解はおろか、世界が求めるクォリティーには到底及ばない出遅れた現状です。

2021年11月に食品大手・日本ハムが、2030年までにすべての妊娠ストール撤廃を表明。実現までにあと8年要するものの、「動物に配慮しないリスク」の重大さを企業がようやく認識し始め、スタート地点に立った段階と言えるでしょう。

今こそ「アニマルウェルフェア」に取り組むべき理由

ここからは、「なぜ今、日本がアニマルウェルフェアに向かう必要があるのか」主な2つの理由を解説します。

【理由①】エシカル消費というニーズの台頭

「倫理的に正しい企業ブランドの商品やサービスを購入したい」

地球環境が危機的状況にある昨今、社会課題に取り組む企業理念や商品は消費者ニーズそのものであり、モノを選ぶときの重要な基準のひとつです。

狭い場所に閉じ込めて動物の自由を奪う飼育方法は、明らかに非人道的で倫理に反します。動物に苦痛と絶望を与える、ストレスフルな環境で育まれた食材の危険性や不健全さに一般消費者は勘づいています。

動物福祉という社会課題への対応は、消費者の購入意欲と企業の売り上げを同時達成する重要ミッションとなるでしょう。

【理由②】投資家サイドからの強い圧力

企業がSDGsに取り組む意義のひとつが「企業価値の向上」。すなわち、投資家や株主、金融機関といったステークホルダーからの信頼獲得です。

近年は投資の世界において、投資先の企業が社会課題や環境問題に配慮して取り組んでいるかを重視するESG(環境・社会・ガバナンス)/SDGs投資の重要性が高まっています。

ESG投資では「企業ガバナンスをしっかり行い、持続可能な成長にも取り組んでいる」という非財務諸表の要素も、重要な投資の判断基準です。動物福祉や環境保全、人権保護を含む企業努力は、SDGsの達成だけでなく、国際的な評価の高まりや日本株の価値向上にも貢献するものでしょう。

「十分な資金援助」と「消費者の力」がカギを握る

法的拘束力がない「日本式アニマルウェルフェアの基準」や「効率と安定生産」を重視する工場式畜産は、もはや時代遅れの飼養方法です。

「動物のいのちを尊重する」消費者、生産者、食品業界の三方よしの実現に向けた、科学的な根拠に基づく国家レベルでのルールづくり、新たな設備投資や人件費を補填する生産者への十分な資金支援をするべきでしょう。

“生き物のいのちと向き合う”飼養環境の実現は、畜産を営為とする人々のディセント・ワーク(働きがいのある人間らしい労働環境/SDGs8:働きがいも、経済成長も)の実現や尊厳維持にもつながる重要な働きかけです。

「動物に苦痛を与えるバタリーケージよりも、生命力あふれる放牧の卵を」
「妊娠ケージで育った養豚より、自由に動き回れる環境で育った豚肉を」

こうした対応をスーパーや販売店に直接求めるアクションこそが大切です。消費者である川下からの要望が生産者の意識を変え、動物福祉に配慮した商品が出回り始める。環境と経済の好循環を生むきっかけに貢献します。

「アニマルウェルフェアに配慮した認証ラベルを判断基準に、消費者が卵や肉を選ぶ」エシカル消費の時代はすでに始まっています。主導権を握っているのは、紛れもなく消費者である私たち。「消費者の選ぶ力」こそが動物福祉先進国への鍵となり、世界を変えます。

今後は、畜産物の輸出拡大や訪日観光客への日本食アピールに向けた、一層の対応強化が不可欠です。鑑識眼を養う「小中学校でのアニマルウェルフェア教育」の早期導入や、動物福祉に配慮した認証マーク付きの商品を積極的に選ぶといった消費者のリテラシー向上も課題のひとつになるでしょう。

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