バイオマスが自然を破壊する?~本当のクリーンエネルギーとは~

バイオマスとは、本来「動植物から生まれた、石油などの化石燃料以外の再利用可能な有機性の資源」のことを言います。

主に木材、海藻、生ごみ、紙、動物の死骸や糞尿、プランクトンのことを指します。

バイオマスは化石燃料と異なり、太陽エネルギーを利用して水と二酸化炭素から生物が生成するものなので、持続的に再生可能な資源であるという特徴を持っています。

しかし、このバイオマスエネルギーのうち木質バイオマスを使ったものが、森林破壊につながっているという現状もあります。

ここでは木質バイオマスは本当にカーボンニュートラルであるのかということについて解説していきます。

「石炭より悪い輸入木質バイオマス」とは

最近、木質バイオマスを利用する際の温室効果ガスについて議論される機会が多くなりました。

その中でも、プリンストン大学のティモシー・D・サリンジャー氏が「グローバルネット」誌で2022年3月に、「石炭より悪い輸入木質バイオマス」というタイトルの文章を公表し、人々を驚かせました。

地球温暖化の原因は、産業革命以後の石炭などの化石燃料の使用によって発生した温室効果ガスであるとされていましたが、サリンジャー氏は現代では石炭などの化石燃料よりも木質バイオマスのほうが環境に悪影響を与えているとの文章を発表したのです。

木質バイオマスの燃焼によって生じる二酸化炭素は、伐採された森林が復元する際にそれを吸収するとされています.

しかしそのためには、数十年のスパンで森林の管理と復元を行う必要があり、それを怠ってしまうと木材を燃やすことで生み出されるエネルギー当たりの二酸化炭素排出量が、森林を復元する際に吸収する二酸化炭素吸収量を上回ってしまうからです。

単純にこのことだけに注目すると、バイオマス発電と火力発電は同じように大量の二酸化炭素を排出するエネルギーの生産方法なのです。

森林を守ることの重要性

森林とその土壌には、多くの炭素が備えられています。

森林を守ることにより炭素の貯蔵量は増え続け、生物の多様性も守られます。

しかし、バイオマス発電の燃料を生産するために森林を伐採してしまうと、長年貯蔵されてきた炭素が二酸化炭素となって再び大気中に放出されてしまいます。

天然の森林を伐採し手を加えて森林を人工的に再生した場合でも、人工的に植えた樹木が生育するためには長い時間がかかり、時には元の天然林の場合よりも炭素貯蔵量が減少してしまうことも考えられます。

そして、一度天然林を伐採した際に失われてしまった生物の多様性は二度と戻ってこないと考えるべきでしょう。

森林の伐採によって失われるのは、生物の多様性だけではありません。

パーム油を作る油ヤシ農園を開発するにあたって、先住民族のコミュニティーによって先祖代々守られてきた森林が、合意を得ないまま開発されてしまうなどの形での人権侵害という問題も起こっています。

また、木質ペレット工場の粉塵や騒音によって地域住民の健康や暮らしが脅かされるという事態になっています、

そのため日本では、バイオマス発電所の建設に対して生活環境や健康への影響を危惧する住民による反対運動も起きています。

木質バイオマスは本当にカーボンニュートラルといえるのか?

バイオマス発電は、木質チップを燃焼させて発電を行う方法ですが、この燃焼時に排出される二酸化炭素が伐採された森林を再生・成長する際にそこに吸収されることから、「カーボンニュートラル」であると言われています。

しかし実際には、元の森林が再生されないケースがある、森林が再生されたとしても伐採以前に可能だった炭素の貯蔵量には及ばない、森林の再生には長い年月がかかりその期間中には大気中の二酸化炭素は増加した状態のままになる、伐採や加工・運送などの燃料を燃やす以外の工程でも多くの二酸化炭素を排出するといった問題があります。

木質バイオマスにはこのような数々の問題があるため、本当にカーボンニュートラルな燃料であるといえるのかといった疑問が持ち上がっています。

木質バイオマスに関わる「厄介な問題」

ここまで記述したバイオマスの地球温暖化対策上の位置づけにはこのような問題があるために、「厄介な問題」とされる向きもあります。

しかし、再生可能エネルギーへの転向を進めていくうえで、単純に「木質エネルギーはカーボンニュートラル」ではないと言い切るためには、議論の前提が異なっていたり、議論の寄って立つ根拠が明確にされないまま議論されていたりするケースも少なくありません。

単純に内容を精査することなく「木質バイオマスはカーボンニュートラルではない」と言い切ってしまうのは、少々乱暴であるといえるでしょう。

このような議論で木質バイオマスエネルギーの利用を完全に否定されてしまうと、人類は地球温暖化対策の重要なひとつの手段を失ってしまうことになります。

木質バイオマスに関する厄介な問題について議論や考察を行う場合には、議論の根拠などを十分に明確にしておく必要があります。

地球温暖化防止のための社会の在り方

地球温暖化は、大量生産・大量消費を前提とした効率が優先され、グローバルに人や物が行き交うこれまでの大都市集中型およびエネルギー多消費型の社会により進んできました。

そのため、地球温暖化防止のためにはこのような社会構造を変える必要があります。

地球温暖化が進む社会の在り方とは対極に位置する分散型社会に変革していくためには、それぞれの地域での木質バイオマスエネルギーの利用は、推進されるべきでしょう。

しかし現在の日本の農山村地域は、人口減少や高齢化の中でそのコミュニティーの崩壊すら問題として取りざたされるという現状があります。

しかし、木質バイオマスエネルギーの活用はそれぞれの地域にある木材を利用することで、エネルギーの自立化や地域経済の発展を促すものになるでしょう。

木質バイオマスを効率的かつロスの少ない方法で活用することで、エネルギーの自給自足、利用システムの運営、森林の整備などによる雇用も生まれるでしょう。

バイオマスエネルギーについての疑問を持たれる方がいらっしゃる場合には、どのようなシーンでどのようにエネルギー資源が無駄遣いされたり森林破壊につながったりしているかを詳細に調べたうえで、改めてその必要性について考えてみてはいかがでしょうか。

まとめ

ここまで、バイオマスの中でも特に木質バイオマスは本当に再生可能エネルギーと呼べるのかということについて考えてきました。

木質バイオマスエネルギーを生み出すことによって排出される二酸化炭素を、次世代の森林が成長過程で吸収していくというサイクルだけを考えると、完全なカーボンニュートラルなエネルギーであると定義することができるでしょう。

しかし、そこにまつわる「厄介な問題」があり、それらをひとつひとつ精査しクリアする方法を考えることで、木質バイオマスエネルギーを地球温暖化対策の方法のひとつとすることができるでしょう。

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