EUにおける低炭素社会実現のための原子力発電の役割

日本では稼働当初から「トイレの無いマンション」といわれ、2011年3月11日に起こった東日本大震災によって引き起こされた津波による福島第一原発事故の発生後、脱原発の世論が高まってきています。
しかし現在のEU(ヨーロッパ連合)では、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を行う際に原子力発電の利用が推進される動きがみられるようになりました。
ここでは、EUのエネルギー事情とEUにおける原子力発電の現在の役割、そして原子力が「持続可能な事業」に分類された理由について解説していきます。

原子力発電とは

原子力発電は、原子炉の中でウラン燃料を核分裂させて熱を発生させ、この熱を利用して水を水蒸気に変えその圧力でタービンを回して電力を生み出すという仕組みになっています。
原子炉は火力発電を行う際のボイラーと同様の働きをし、それ以外の仕組みは火力発電とほぼ変わりがありません。

原子力発電が火力発電と異なる点は、発電を行う際に地球温暖化ガスの一種である二酸化炭素を排出しないという点です。この点において、原子力はSDGsの持続可能エネルギーに分類されるのでは?とお考えの方もいらっしゃると思います。
しかし原子力はクリーンなエネルギーとはいいがたく、チェルノブイリや福島第一原発の事故では多くの人が被害にあい、また事故により人が住むことができなくなってしまった地域もあります。

また正常に運転しつづけていても、放射性廃棄物が排出されその最終処分場をどこにするか、日本においてはまだ決定されていないといった問題もあります。

原子力発電が抱える問題

日本における原子力発電が抱える課題には、その安全性と放射性廃棄物の最終処分場の早期決定などがあります。
特に日本が気をつけなければならないのは、地震などの自然災害により原子力発電所に被害が及ばないようにするということです。
記憶に新しい東日本大震災では想定をはるかに超える津波が東北沿岸部を襲い、福島第一原発に大きな損傷を与え、その安全な解体・処理は令和になった現在でも続いているというのが現状です。

しかし、EUではイタリアやギリシャなどの地中海の沿岸にある国以外では地震が発生する頻度が少なく、その他の自然災害により原発に被害が及ぶ可能性が日本と比較して低くなっています。
そのため、自然災害により夏至力発電所に被害が及ぶ可能性よりは、人為的または設備の劣化や設計ミスなどによる事故に注意する必要があります。
また、放射性廃棄物の最終処分場の決定に関する問題では、日本と同様に早期に最終処分場の建設を決定する必要に迫られています。

EUのエネルギー事情

EUで一番の原発大国はフランスで、原子力発電で生み出される電力はフランス全体の発電量の約77%を占めています。
このフランスをはじめとした原子力発電への依存度が高い国が、原子力発電を「EUタクソノミー(持続可能な経済活動であるかどうかの分類)」に、原子力を含める動きをけん引する働きをしています。

そもそもフランスで原子力発電が多く利用されている理由は、価格が不安定な原油に自国のエネルギー供給を左右されないためというものです。
早い段階で脱原発に舵を切ったイタリアやドイツなどの国もありますが、イタリアは国内の電力供給の不足が常態化しているため、それをフランスなどの他国からの輸入で賄っており、またドイツでは国内西部に豊富に埋蔵されている石炭を利用してきましたが、メルケル前政権が2038年までに石炭を用いた火力発電を廃止する方針を示したことにより、今後は再生可能エネルギーとロシアからパイプラインで送られてくる天然ガスによる発電に対する依存度が高まるものと予想されます。

EU内でも原子力に対する見方は一枚岩ではない

そもそものEU統合の大きな目的のひとつに、「原子力の平和利用」というものがありました。
EUの前身であるEEC設立のために調印されたローマ条約で、各国の原子力発電セクターを監督する組織である「ユートラム(欧州原子力共同体)」も創設されたのです。

しかしEECがEUへと発展していく陰で、ユートラムの存在感は徐々に衰退していき、現在ではEUに加盟している27カ国のうちで原子力発電所を維持しているのは約半分の13カ国に減少し、原子力発電を法律で禁止している国もあります。

そしてこのようなEUの原子力事情の中で、強い力を持つドイツとフランスが原発をEUタクソノミーに含めるかどうかについて対立しています。

EUが低炭素社会実現のために原子力発電の活用を推進する理由

EUの中でもフランスをはじめとした原発推進派の国が、原子力発電をEUタクソノミーに含めようとしている理由は、現在の化石燃料を利用した二酸化炭素を大量に排出する発電から再生可能エネルギーを利用した発電に移行する際に、原子力発電が大きな役割を果たすと考えているためです。

2022年に原子力をEUタクソノミーに含める方針がEUで発表されましたが、これにより再生エネルギーによる発電所の増設のみでは達成することができない二酸化炭素削減目標を、原子力発電を利用して達成しようという動きが出てくるものと思われます。
それだけではなくEUタクソノミーに含まれる産業は投資の対象となるため、今後原子力発電がEUタクソノミーに含まれれば、原子力発電もまた投資の対象となり多くの資金が原子力関連の市場に集まるものと予想されます。

そのような場合に、原子力活用の技術やノウハウを持つ国は資金的にも潤う結果となるのです。

EUの原子力発電への依存度は今後高まるのか?

原子力発電を実際に使用している国は、オイルショック以前には欧米を中心とした10カ国余りに限られていて、その発電量がすべての発電量に占める割合もわずか2.1%にとどまっていました。
しかし、オイルショックをきっかけとして先進国を中心に石油に代わるエネルギーとして注目が集まり、次々と原子力発電が導入されました。

スリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故の影響により、1980年代にはイギリスとアメリカの両国で導入の停滞が見られましたが、エネルギーの供給リスクが高い国やエネルギー自給率が低い国を中心に、準国産エネルギーの比率を高める目的で原子力発電の利用が進ました。
その結果、2007年の時点で世界の全発電量に占める原子力発電による発電量は、13.8%を占めるようになります。

原子力をEUタクソノミーに含める方針がEUで発表されたことにより、今後化石燃料から再生エネルギーへの移行期間に排出される二酸化炭素を、原子力発電を活用することで削減し、それぞれの国で定めた二酸化炭素の削減目標を達成しようという動きが出てくるでしょう。
これによって、再生可能エネルギーによる発電所を突貫工事で建設することなく、原子力発電をうまく利用しながら化石燃料による発電を減らし、ひいては二酸化炭素の排出削減目標の達成を目指すというのが、EUの中の原発推進派の国々の考えです。

従ってフランスや、EUから脱退しているものの影響力を持つイギリスなどの原発推進派の国々では、今後も新たな原発の建設が予定されています。
しかしEUの全発電量に対して原子力発電が占める割合は2022年の時点では約26%ですが、2050年までには約15%にまで減少すると予想する向きもあるため、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が進むにつれて、原子力発電はその役割を徐々に終えていくものと考えられます。

まとめ

ここまで、EUで原子力発電がEUタクソノミーに含まれることにより持続可能な経済活動に分類されるようになり、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行の際に、安価で安定的な電力の供給に欠かすことができない発電方法になる可能性が高いということがお分かりいただけたと思います。

しかし原子力と同時に、二酸化炭素を排出する天然ガスもEUタクソノミーに含まれており、これは原子力大国であるフランスと、ロシアからパイプラインで送られてくる天然ガスに依存するドイツという2つの大国の政治的な思惑どうしが妥協しあった結果だという見方もあります。

原子力は二酸化炭素排出削減目標に大きく役立つ発電方法ですが、放射性廃棄物の最終処分場の決定などさまざまな問題や、事故のリスクを孕んでいるため純粋にクリーンなエネルギーであると言い切ることは難しいでしょう。

このように再生可能エネルギーの普及させていく上では、各国の政治的な事情により「再生可能エネルギー」の定義が揺らいでくることもあるのです。

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