地球温暖化は現在さらに進み、2023年には国連のアントニオ・グレーデス事務総長はこの状態を「地球沸騰化」と表現しました。
この言葉からもわかるように、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出量の削減は、人類にとって最大の課題のひとつであるといえます。
しかし、温暖化が進んでいるのは、地上の気温だけではありません。
海水温の上昇も近年大きな問題となっており、この現象は人類の生活に大きな影響を与えています。
ここでは、海水温上昇の原因や人類に及ぼす影響について解説していきます。
海水温上昇とその原因
海水温上昇とは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量の増加が原因となり急激な地球温暖化が急速に進み、それによって海水温もまた上昇していることを言います。
世界全体の海水温の年平均上昇率は100年間でプラス0.56度となっていますが、日本近海の海水温の平均上昇率は2021年までの約100年間でプラス1.19度と、世界全体の平均上昇率を大きく上回っています。
直近100年間の平均気温上昇率はプラス1.28度なのでそれと比較すると低いと感じる方もいらっしゃると思いますが、海水は大気と比較するといったん上昇してしまうと元に戻りにくにため、海水温が元に戻るまでには長い時間が必要となります。
二酸化炭素の排出量を削減するなどの方法で気温上昇を食い止めることができた場合であっても、海水温がすぐに低下することはなく、相当な時間が必要となります。
海水温上昇が日本の気候に与えるダメージ
海水温が上昇すると、二酸化炭素や酸素以外に水蒸気も発生します。
この水蒸気が大気中で冷やされ水となり、雨となって地球上に降り注ぎます。
このときに海水温が26.5度以上になっていると、水蒸気は南東貿易風と北東貿易風いう日本の南側の会場で渦になり、上昇気流が発生して台風が発生しやすい状態になってしまいます。
気温が高くなればなるほど海水温もまた上昇し、台風が発生しやすい状態がより頻繁に起こるようになります。
上昇気流によって海面付近の気圧が低下すると、周囲の空気を巻き込んでさらに多くの水蒸気が大気中に上昇し、大きな雲となって風速も増し、台風が巨大化する原因となってしまいます。
そのため、地球温暖化が進み気候変動もまたさらに進むことで、巨大な台風が頻発し日本に大きなダメージを与える可能性が高まります。
海水温上昇は海の生態系も壊す
魚は、それぞれの種類に適した水温の海域に集まるため、水温の変化は魚の分布に大きな影響を及ぼします。
また、海水温が上昇すると、その水は密度が低くなるため軽くなり、海面の表面にとどまりやすくなります。
このような状態になると海面付近の海水と深層の海水が混ざりにくくなるため、深海の栄養分が海面付近に行きわたらなくなってしまいます。
このような理由から、魚のえさとなるプランクトンが減少しているという研究結果もあり、漁業へも影響を及ぼします。
例を挙げると、1980年代に日本近海で豊漁だったマイワシが、1990年代に入って急激に漁獲高が減少してしまいました。
この理由のひとつが、「レジームシフト」と呼ばれる海洋の環境変化です。
海洋の環境は、30年から50年の周期で変化します。
日本近海のこの周期による環境の変化を見てみると、寒流である親潮が強い時期と、暖流の黒潮が強い時期が交互に訪れます。
それによって、豊漁となる魚の種類も変化します。
また、市場価値が高いマグロを例に挙げると、津軽海峡ではなく宗谷海峡を通過して北海道沿岸の定置網で漁獲される量が増加し、海水温上昇の影響で北上傾向が強まった結果であると捉えられています。
これは一過性の現象かもしれませんが、近年の傾向としてマグロの北海道への来遊が増えているという事実に間違いはありません。
このように、今まで獲れていた種類の魚が獲れなくなったり、逆に今まで獲れていなかった魚が獲れるようになったりという現象は、日本各地で起こっています。
海水温上昇により国土が狭まる可能性も
気温が上昇すると、陸上の氷河や氷床に貯蔵されていた氷が溶けだし、海に流れ込みます。
このような状態になると海水の量が増加し、海面の上昇につながります。
また、海水温が上昇することで、海水の体積が大きくなり、これも海面上昇の原因の一つとなります。
海面上昇が起こると、陸上に浸水する海水の量が多くなり、そうなるとツバルやフィジー諸島共和国など海抜の低い島国は大きな被害を受けることになり、最終的には国土や国の存続さえ危ぶまれる事態になっています。
海面が30センチメートル上昇した場合、日本においても大きな影響が出てくると予想されています。
30センチメートルの海面上昇により、日本全国の砂浜の半分以上が失われてしますという報告もあります。
その被害は、砂浜だけにとどまるとは限りません。
海水温の上昇に伴う海面の上昇が1メートルに及んだ場合には、日本の国土の約9割が消失してしまうと考えられています。
海面が1メートル上昇した場合を想定して堤防を高くするなどの対策を行わなければ、東京では、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区のほぼすべてのエリアが影響を受けることが予測されています。
海水温上昇の対策
海水温上昇は、地球温暖化が原因となっています。
そのため、地球温暖化のための対策を行えば海水温上昇も食い止めることができるでしょう。
海水温上昇を原因とする海面上昇については、防波堤や高潮を想定した設備などの物理的な対策が有効です。
しかし、海水温上昇を根本的に解決するためには、地球温暖化の大きな原因となっている二酸化炭素などの温暖化ガスの排出削減を行う必要があります。
企業などは、すでにクリーンエネルギーの生産やその使用などで二酸化炭素排出量の削減に努めています。
しかし、個人でも地球温暖化ガスの排出削減に貢献することは可能です。
例えば、無駄な電力を使用しない、家電製品を省エネタイプのものに買い替える、できるだけ公共交通機関を利用する、買い物をする際にはマイバッグを使用するといったことです。
このような生活の中での小さな工夫の積み重ねで、二酸化炭素の排出量を削減することができるでしょう。
まとめ
海水温上昇は地球温暖化が原因となっており、気温と比較すると海水のほうがその温度が元に戻りにくいものです。
また海水温上昇は、地球にさまざまな影響を及ぼし、時には人命を危険にさらしたり、国土を消失させたりと大きな問題を起こすことがお判りいただけたと思います。
地球温暖化のうち大気中の温度を下げることよりも、海水温を下げることの方が同じ対策を施した場合でもより長い時間がかかります。
そのため、SDGsの目標13気候変動に具体的な対策を達成するためには、大気の温度だけではなく海水の温度にも注目しなくてはなりません。
海と陸、それぞれの豊かさを守るために、個人でもできる二酸化炭素排出量削減の取り組みを行ってみてはいかがでしょうか。