「やってます感」で消費者をあざむく”SDGsウォッシュ”がへらない理由

2021年度の日本のSDGs達成状況は世界165か国中18位。前年度よりランクをひとつ落とし、過去最低の2016年と同じ順位でした。

「SDGs目標12:つくる責任 つかう責任」は、有限な資源の中で循環型社会の実現を目指すもの。2015年のパリ協定を皮切りに、生産者である企業側にも「サスティナビリティ経営」や「ESG投資」といった、持続可能な生産方法を採用しようという機運が高まり始めました。しかし、こうした潮流を背景に「SDGsウォッシュ(SDGsウォッシング)」という新たな社会問題が台頭しています。

SDGsウォッシュとは?

「SDGsウォッシュ(SDGsウォッシング)」とは、「SDGs」と”誤魔化す”という意味を持つ「ホワイトウォッシング」を掛け合わせた造語のこと。企業価値の向上やCSRの一環として、SDGs17のゴールに取り組んでいるように振る舞うビジネスや誇張表現を揶揄する言葉です。悪意がなくても、別の観点から見ると矛盾している企業も混在するため見抜きにくいケースもあります。

元々は、エコや環境に配慮している風を装う企業を批判する「グリーンウォッシュ(green wash)」という用語に由来し、ここから派生したのが「SDGsウォッシュ」です。環境保全以外にも、17の目標と169のダーゲットに含まれる貧困やジェンダー、労働環境といった多様な分野が含まれます。

未曾有の地球問題に直面する中、影響力の大きい企業がSDGsを意識するのは必然です。その一方で、企業価値向上や商品PRのために、誤った方法でSDGsに取り組むと企業活動全体に支障をきたす可能性があります

その波及効果は顧客離れや不買運動に留まりません。ESG投資やSDGs融資など、金融機関や投資家といったステークホルダーからの信用失落はより深刻なダメージです。融資の困難化から株価低迷、ひいては従業員の労働意欲低下まで経営全般に影響が生じる場合もあります。

そもそも、なぜ企業はこうしたSDGsウォッシュに陥ってしまうのでしょうか。要因を深掘りしていきます。

SDGs実現をはばむ2つの要因

SDGsウォッシュがなくならない根本原因は、以下の2通りに分類できます。

(1)経営層による無知や無関心

一つ目は、経営層によるSDGsへの理解不足。もしくは理解には努めてはいるものの、「経営との統合」に上手く対応できていない企業で多く見られます。

SDGsウォッシュ対策は、原材料調達や製造部門、セールスから廃棄までのバリューチェーン全体や社外のサプライヤーも含めて評価・モニタリングの対象範囲となります。そのため、本質的なSDGsの社員教育や、本社中枢から離れた融資・出資先企業や海外子会社を含めたリスクポイントの熟知が必要です。

こうした性質を踏まえた上で、SDGsがビジネスや事業においてどのような意味を持つのか、その認識をポジティブとネガティブの両視点で経営者自らが消費者やステークホルダーに対して発信することが課題です。

(2)企業による社会的影響を過小評価

「地球や企業の持続可能性よりも短期的な利益重視」という企業はまだまだ多く存在します。こうした潮流の変化に順応できずに、SDGsウォッシュに陥る企業の共通点が「パーパス不足」、すなわち社会課題の解決や社会貢献意識の欠如です。

モノ余りの時代をむかえ、消費者の選択基準は「モノ」から「コト」の豊かさに急変しています。これは「自分の利益だけでなく、地球の未来を考えて環境保護や社会貢献できる商品・サービスへ投資したい」という消費者心理の変遷によるものです。

総じて「なぜ企業が社会課題を解決すべきなのか」という企業パーパスなくして、SDGs達成はありません。裏を返せば、支援者であるカスタマーやステークホルダーの”問い”に答えることこが企業ミッションであり、新しいマーケットの創造にも繋がります。

日本で起きたSDGsウォッシュ事例

実際に国内で生じたSDGsウォッシュ事例を通して、さらに解像度を高めていきましょう。

環境保全やエコツアーを掲げる大手旅行代理店のHIS(エイチ・アイ・エス)。同社は本業で「エコ」や「環境保全」を謳っています。その一方で、子会社が開発を進めるパーム油を燃料としたバイオマス発電に対して、国内外の環境団体から批判が相次ぎ撤退を求められました。

ご存知の通り、パーム油は植物油脂や化粧品の原材料。単収が高く低価格なパーム油は、主な油脂の生産量の約30%を占める世界の主力油脂です。日本は現在、約70万トンのパーム油をマレーシアやインドネシアより輸入しているものの、需要拡大に伴うプランテーション開発はオラウータンなど野生動物の住処を奪い、ヘイズ(煙害)や生物多様性の喪失、プランテーションで働く労働者の人権問題、気候変動を加速させるといった深刻な環境問題を引き起こしています

指摘を受けた同社は、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)の国際認証を受けたサスティナブルなパーム油の取得に努めるものの原料調達の目処が立たず、国際批判も強まっています。

SDGsウォッシュの解消にむけて

企業によるSDGsの取り組みや開示は黎明期を迎えたばかりです。事業内容や企業規模にかかわらず、大きな改善の余地があるでしょう。一方で、自社の事業との紐付けというステージを超えて、中長期的な戦略との統合、定量的なインパクト評価の実施まで落とし込みが進む企業も見られます。

今後本格的な取り組みを予定している企業担当者は、自社の事業がSDGsに最大限貢献できるよう5つのステップを示したSDG Compassを参考に、持続可能性を企業戦略の中心に据えて有効性を高めることが大切です。

STEP1:SDGsを理解する
STEP2:優先課題を決定する
STEP3:目標を設定する
STEP4:経営へ統合させる
STEP5:報告とコミュニケーションを行う

出典:SDGs Compass

また消費者やステークホルダーの広告コミュニケーションを図る際には、「電通のSDGsコミュニケーションガイド」に基づき、SDGsウォッシュ回避策・人権への配慮のためのチェックポイントの確認が有用です。

1. 根拠がない、情報源が不明な表現を避ける
2. 事実よりも誇張した表現を避ける
3. 言葉の意味が規定しにくいあいまいな表現を避ける
4. 事実と関係性の低いビジュアルを利用しない
5. 言語本来の意味を調べてから表現に用いる
6. 広告表現に登場する人たちや集団の表現方法が適切かを検証する
7. 各国で価値観・文化の違いがあることを認識しておく

現段階で、国際的なSDGsなガイドラインは存在しません。そのため、SDGsによる広告コミュニケーションを行う上で、人権の多義性やあいまい性は批判や指摘の対象となるため特段の理解を得ることが重要です。

ここまでは企業側のSDGsウォッシュ回避策についての言及でした。同時に、消費者である私たちにもSDGsリテラシー、すなわち倫理的に正しい企業を選択する力が求められる時代です。以下に代表される3つの軸を知って、鑑識眼を身につけていきましょう。

  1. トレーサビリティの確立:製品に使用される原材料調達から廃棄までの追跡できるか
  2. 客観性のあるSDGs認証:利害関係のない第三者機関からの評価
  3. 企業HPでの報告:SDGsに関する取り組みやインパクト評価の公開

今後特に期待されるのが、②の「SDGsインパクト認証」といったロジカルな世界基準です。認証を受けた企業は、SDGs達成に相応しいコミットがある表明となり、認証制度それ自体の魅力を高めることにも繋がります。こうした客観性のある認証制度は、企業のSDGsコミット度合いを測定するツールとしてだけでなく、消費者である私たちの心豊かなライフスタイルの道しるべともなるに違いありません。

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