自宅でコーヒーをドリップし、その味と香り、そして時間を楽しむ方も多いでしょう。
その後にゴミとして出るのが、コーヒーをドリップした後のコーヒー豆のカスですが、ほとんどの自治体では、水分を切って燃えるごみとして捨てるのが一般的になっています。
しかし富山県黒部市では違う捨て方をするように、市から指導がされています。
その方法とは、「キッチンのシンクなどからそのまま捨て、下水道に流す」というものです。
一般的な捨て方しか知らない方にとっては、抵抗を覚えるようなコーヒーかすの捨て方ですが、この方法でコーヒー豆のカスを捨てることが二酸化炭素の排出量削減に役立つというのですから、驚きです。
ここでは、なぜコーヒー豆のカスを下水に流すことが二酸化炭素排出量の削減につながるのかについて解説していきます。
「安心してください。キッチンのシンクから流せますよ!」
富山県黒部市のホームページには、このようなキャッチコピーで家庭でのごみ処理方法を案内しています。
その処理方法とは、ドリップコーヒーに使用したあとのコーヒーかすを、シンクからそのまま流して処理するというものです。
このような方法でコーヒー豆を廃棄できるのは、黒部市だけです。
なぜ、黒部市でのみこのような方法でコーヒー豆のカスを廃棄できるのでしょうか。
その理由は、黒部市の生活排水などを処理する浄化センターにあります。
黒部市の浄化センターでは、どのような方法でコーヒーかすを含めた排水とともに下水に流されるごみを処理しているのでしょうか。
下水の汚泥とコーヒーかすを利用してバイオガスを作る
富山県黒部市でのコーヒーかすの処理方法は、排水の処理過程で出る汚泥とコーヒーかすを10対1の割合で混ぜてすりつぶし、55度で2週間程度発酵させるというものです。
この混ぜ合わせた汚泥とコーヒーかすを発酵させる発酵槽の中には、腸内細菌と同じような働きをする微生物が存在していて、この汚泥とコーヒーかすからバイオガスを発生させます。
このような方法でできたバイオガスは、その65%をメタンガスが占めています。
この方法でバイオガスを発生させると、家庭使う一か月分の量を1時間程度で得ることができるというのです。
バイオマスの原料として生ごみを利用する自治体は多くありますが、富山県黒部市のような方法でコーヒーかすを使用しているのはここ一か所のみです。
生ごみを利用してバイオマスを作る場合には、混入している他のごみを取り除くという前処理が必要となりますが、コービーかすを利用することによって前処理が不要になります。
またコーヒーかすは油分を含んでいるため、下水の汚泥のみを利用してバイオマスを作るよりも10倍以上の効率でエネルギーを得ることができるというメリットもあります。
このようにメリットだらけのコーヒーかすによるバイオマスの生産ですが、なぜ富山県黒部市の一か所でしか行われていないのでしょうか。
その理由は、コーヒーかすに含まれているカフェインが発酵の邪魔をするという説があるためです。
富山県黒部市の施設では、ガスを取り出した後に残る汚泥を乾燥させ、製紙工場の燃料として販売したり、肥料にしたりするなどして無駄なく利用しています。
この浄化センターは、ボイラーや発電機を動かすために浄化センターで作られたバイオガスを利用しいるため、灯油などの化石燃料には頼っていません。
その結果、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を、年間約1千トン減らすことに成功しています。
浄化センター建設のきっかけと今後
現在の富山県黒部市の浄化センターでは、浄化の過程で出る汚泥をコーヒーかすを利用して余すところなく活用しています。
しかしこのセンターができる前は、汚泥の処理はどのように行われていたのでしょうか。
以前は汚泥を埋め立てやセメントの原料などに転用するなど、現在とは異なる形で利用されていましたが、このような方法では次第に処理にかかるコストが膨らみ、受け入れ先も限られるようになりました。
そのため市は20年ほど前に、エネルギー利用への転換を決めたのです。
公共施設の建設や運用を民間が担うPFI方式を活用し、浄化センター内に新たな施設を作り、事業のために設立された「黒部Eサービス」と26年までの契約を結び、総事業費約36億円で維持管理や運営を委託しています。
運営当初から、県内にある大手飲料メーカーの工場で出るコーヒーかすの受け入れを行い、その量は昨年度で1,800トンにも及びます。
しかし、市民に「コーヒーかすを下水に流して」と呼びかけを始めたのは、つい昨年の事です。
また市は、生ごみを細かく砕いて下水に流すディスポーザーの設置費用を、以前から市民に奨励しており、3万円を上限として取り付け費用の半額を補助しています。
市の上下水道工務課によると、世帯数約1万6千世帯と事業所や公共施設を含めた建物から水と一緒に下水に流せば、配管が詰まる心配はないということです。
このような取り組みに関しては施設の見学会でデモンストレーションを行い、普及への努力も行っています。
コーヒーかすに加えて生ごみも下水に流すことで、ごみ処理施設で処理するごみの量の削減を行い、さらなるバイオガスの生産が期待できます。
市民の憩いの場となる足湯も設置
富山県黒部市の気候は日本海型気候に属し、冬は寒冷で積雪が多く、夏は高温多湿なので、四季がはっきりしています。
また、国内有数の多雨多雪地帯で、降水量は上流に向かうほど多くなります。
年間平均気温は、14度。
このような富山県黒部市の浄化センターには足湯も併設されているため、市民の憩いの場となっています。
この足湯もまた施設内で生産されたバイオガスを利用していて、足湯を市民に開放することで、バイオガスの存在や実際に利用している現場を市民に見て、利用してもらうことができます。
浄水コストを施設事態で賄うメリットは市民の生活にも及ぶ
富山県黒部市の浄水センターのように、汚泥やコーヒーかすを始めとした生ごみを利用して浄水センターで利用するエネルギーを賄うと、下水を浄化するコストを低く押さえることができます。
このようにしてさらにコストを下げる取り組みに市が補助金を出すことで、さらにコスト軽減が進み、処理後に残る汚泥の販売先を確保できれば、浄水しながら利益を出せるという状態になるかもしれません。
そうなれば、市民が汚水の浄化のために支払っている税金は安くなる、または全く支払わなくてよくなるという将来も期待できるかもしれません。
コーヒーかすから始まった汚泥からバイオガスを作るという取り組みは、市民の協力によって規模を拡大していくと、市自体の財政と市民自身の生活の負担をなくすことにつながることが期待できます。
さらにこの取り組みによって二酸化炭素の排出量を削減できるため、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に寄与できます。
市や市民の経済的負担が軽くなり、環境に与える負荷も少なくなるというメリットは、非常に大きなものです。
今後、富山県黒部市の浄水センターの取組みは、他の自治体にも広がっていくかもしれません。