日本の履歴書文化に見るアンコンシャス・バイアスとは?

「SDGs目標5:ジェンダー平等を実現しよう」
「SDGs目標16:平和と公正をすべての人に」

上記目標の達成に向けて、「ジェンダー平等」「ダイバーシティの実現」「インクルーシブ教育の重要性」が叫ばれています。しかし日本社会に目を向けると、多種多様な人々が社会に参画しやすくなる制度や取り組みが十分とは言えません。

2021年に発表されたグローバルジェンダーギャップ指数(男女格差を表す数値)によると、日本は156カ国中120位(前年度は153カ国中121位)と先進国の中でも最下位にランクイン。セクシャルマイノリティーへの理解や配慮はおろか、男女間のギャップ解消にさえ世界に後れをとっている切実な現状が見られます。

こうした中、多民族社会アメリカを中心に注目されるのが「アンコンシャス・バイアス」という新たな社会課題の台頭です。日本では「無意識の偏見」「偏ったモノの見方」とも解釈されます。ジェンダー平等やダイバーシティの実現にあたって、この「見えない偏見」が差別や少数派の排除につながるとされ、先進国・途上国の双方で解決が急がれる課題のひとつとして浮上しています。
実はこのアンコンシャス・バイアスという深い溝は、わたし達の身近な日常にも潜んでいます。日本社会に深く根付く「履歴書」を具体例に、「無意識の偏見」への解像度を高めていきましょう

世界では「顔写真貼り付け」は法律違反

ご存知のように、英文履歴書は日本の伝統的な履歴書と大きく異なります。国によって差があるものの、日本で必須とされる内容が法律で禁止されています。例えば、日本の履歴書には本人の顔写真を貼り付ける項目が存在します。

しかし、欧米では多くの国で顔写真の貼り付けは禁止事項です。自主的に貼り付けて応募する求職者もいるようですが、極めて少ない事例です。顔写真貼り付け以外にも、日米の履歴書には大きなギャップがあります。

履歴書記載がNGな項目例

  • 顔写真
  • 性別
  • 人種
  • 家族構成、子供の有無、既婚未婚
  • 生年月日、年齢
  • 健康状態

今までごく当たり前だと認識してきた方には、いささか衝撃的かもしれません。しかし、これが欧米のスタンダードです。

ダイバーシティ社会・アメリカの場合、人種や宗教はもちろん、年齢、性別(性的マイノリティ)を理由とする採用可否は「雇用差別禁止法」によって禁じられていますすべての人に平等なチャンスが与えられるよう、記載事項に制限が設けられているのです。

黒人女性がレジュメに自分の顔写真を貼り付けてエントリーしたと仮定します。採用担当者によっては、レジュメに貼り付けられた「顔写真」から、彼女の出身地や性別、年齢といったあらゆる主観的なパーソナリティーを推定し、採用の意思決定に影響を与えてしまう可能性があります。

こうしたリスクを回避すべく、「潜在下での偏見」によって求職者が不利益を受けることのないように法的基盤が整備されているのです。日本のような年齢差別や、面接で年齢質問も形式的には禁止されています。面接で応募者とお会いして初めて、本人の口からパーソナリティーが明らかにされるのも、人権問題や男女平等意識が高いアメリカ社会ならではの特徴と言えるでしょう。

日本の履歴書はアンコンシャス・バイアスの温床

日本の履歴書に目を移すと、いかにアンコンシャス・バイアスが盛り込まれているのか気付かされます。課題解決の前に、海外との雇用システムの違いや日本人特有の価値観について理解しておきましょう。

まず、日本の履歴書では古い履歴(学歴・職歴)から時系列に記載します。一方、アメリカの履歴書は正反対です。

日本型雇用とも呼ばれるメンバーシップ型雇用を採る日本では「総合職採用」を前提としてきました。入社後にジョブローテーションや転勤、異動を経て、その企業で活躍する人材を長期間かけて育成するシステムです。そのため、年齢や性別、学歴や婚姻状況といった主観的要素の把握は極めて重要なファクターとされ、そうした企業観が履歴書の記載項目や順番にも反映されてきました。

対するアメリカでは「ジョブ型雇用」、いわゆる「スペシャリスト(専門職)採用」が基本です。特定の仕事ができる即戦力となる人材を求めるため、現時点での能力や高い専門性、スキルのある人が評価される雇用システムの特徴があります。

レジュメ(履歴書)には自分がいかに応募したポジションに適任であるか、それを裏付ける実績やスキルを最初に述べることが重視され、職歴や学歴は補足的な位置づけと捉えられます。

また、世界の主流は電子媒体によるエントリー方式です。日本企業、こと人材不足が深刻な中小企業においては「昔ながらの手書き履歴書」が慣習として色濃く残っています。これは「手書き」=「誠実や熱意」と見なす日本人特有の価値観によるものでしょう。

しかし、諸外国では真逆です。企業の多くが効率性を重視したAI(人工知能)による生産性を重んじたレジュメ選別を行うため、手書きは論外です(AIが認識出来ません)。また求職者の立場で考えると、記載文面の再利用や失敗しても書き直しが出来るといったメリットも見逃せません。

平和と公正な社会の実現には、こうした文化や慣習による深いギャップの解消も必須要素。持続可能な企業や経済成長にむけて、すべての人を守れる法律や公的制度の充実が喫緊の課題です。

根強く残る「昭和28年の標準ルール」

そもそも、なぜこのような履歴書文化が色濃く残り続けるのでしょうか。現代の日本でスタンダードとされる履歴書の雛形は、1953年にJIS(日本工業規格)に認証された昭和の産物です。

確かに、戦後の復興から高度経済成長へむかう中で、大量採用や終身雇用を前提とした雇用システムの時代には理に適ってました。一方で、ジェンダー平等やダイバーシティ社会の重要性、終身雇用の見直しが叫ばれる現代においては紛れもなく負の遺産です。旧態依然とした70年近く前のルールが、今なお日本社会を支配し続けている事実と真摯に向き合う必要があります

日本社会に突きつけられた課題

終身雇用の崩壊が叫ばれる中、従来型の日本式履歴書や雇用システムは限界に達しています。今後少子高齢化が進む日本社会では、事業規模や業種を問わず、深刻な労働力不足も懸念され課題は山積みです。

人材不足を乗り越え、従来のサービスレベルを維持するためには、女性や高齢者、外国人労働者といった偏りのない採用システムが鍵となります。安定した雇用の創出と経済成長に向けた、「見えない偏見」を筆頭とするソフト面の意識改善、AIやIoT(Internet of Things)といったデジタル技術を駆使したハード面の両輪での改革が求められます

今回は日本の履歴書文化に隠れるアンコンシャス・バイアスを取り上げましたが、これは氷山の一角に過ぎません。

一例を挙げると、女性活躍推進法の施行にもかかわらず顕著な改善が見慣れない「女性の経済参加率」や「管理職の男女比率」。欧米諸国と比べても低い「男性の育児休暇率の向上」「LGBTQ+(性的マイノリティ)の人達への理解やパートナーシップ制度の拡大」にも取り組むべきでしょう。
今後は日本社会に根付く同調圧力を良しとする雇用慣習を見直し、新しい時代の価値観にアップデートする、もしくは古い価値観から潔く”距離を置く”といったパラダイムシフトが求められています

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