近年、日本各地でシカやイノシシが人間の住んでいる地域に出没し農作物に被害を与えたり、車と衝突したりするなどしてさまざまな被害が出ています。
そして時には熊までも出没し、人間に危害を加えることもあります。
このような被害を「獣害」といいといい、被害を及ぼす生物を「害獣」と呼びます。
これらの害獣を狩猟によって捕獲するだけではなく、食肉として利用することで人間の安全や農作物を守るだけではなく、SDGsの目標達成に役立てることができるのです。
ここでは、害獣を狩猟によって捕獲し食肉として加工することで達成されるSDGsの目標や、今後の課題などについて解説していきます。
SDGsと狩猟の関係
狩猟を行うことで、増えすぎた害獣の数を調整し、崩れてしまった生態系のバランスをもとに戻すことができます。
そのようにして捕獲された害獣は埋設または焼却されていて、その処理にかかる費用は捕獲者や地方自治体の負担となっています。
そこで注目されるのが、狩猟によって捕獲された害獣の肉、つまりジビエを食品として利用することによるSDGsの目標達成です。
現在、ジビエはグルメとして脚光を浴びている以外にも、農作物の被害防止という視点から注目を集めています。
また、捕獲した害獣の肉を食べる以外にも皮革等さまざまな部分も無駄せず活用することができるので、廃棄物の削減にも役立ちます。
このように害獣を狩猟により捕獲することで、SDGsの目標達成につながります。
獣害の現状
害獣とされる代表的な生物は、シカ、イノシシ、サル、ハクビシン、アライグマ、カラスなど多岐にわたります。
これ以外の動物で、毎年のようにメディアなどで被害が報告されている動物にクマがおり、2021年度における北海道のヒグマによる死傷者は過去最多の14人にのぼりました。
農作物による被害という観点から見ると、シカやイノシシによる被害が全体の約6割を占めています。
特にシカは非常に繁殖力が強いため、1987年から2014年までの36年間に分布領域が約2.5倍になり、農作物被害の原因の1位になっています。
シカの分布領域の拡大に伴って、シカによる樹皮剥ぎや食害などの森林被害がもたらされた面積は、獣害を受けた森林面積の約7割を占めています。
このように獣害により森林に被害がもたらされると、希少動物の減少や土壌流出を引き起こす原因となります。
また、農作物の被害金額は2020年度で約161億円にのぼり、害獣に農作物を食べられる以外にも、農作物を踏み倒されたり、掘り起こされたりという被害もあり、ほとんどの農作物で被害が発生しています。
このような害獣による農作物の被害は、金銭的なダメージ以外にも生産者に精神的な影響を与えるため、営農意欲の減退や耕作放棄、離農のきっかけになるという問題も抱えています。
現状の課題
害獣による被害の現状の課題には、以下のようなものがあります。
餌場の存在
農作物を収穫した後、取り残しがあり管理者がいない畑や果樹園などは、人間にとっては価値がないものであっても、害獣にとっては非常に重要な餌場となります。
このような農業を行っている地域以外の市街地でも、コンビニの廃棄物置き場やごみ集積場などは害獣にとっての絶好の餌場となってしまい、害獣はこれらの場所を「簡単においしいものが食べられる餌場」と学習してしまうため、市街地にまで出没するようになってしまい、農作物だけにとどまらず人間の生活にも危害を加えるようになってしまいます。
里山里地の減少
里山里地とは、環境省では「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次森林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」として定義されています。
このような里山里地は、古くから農業や林業を通じて人の手が入った自然環境が出来上がった場所で、さまざまな生物の生活の場所になっていました。
しかし、近年では過疎化や高齢などの影響で、農業や林業に携わる人間が減ってしまい。里山里地は放置され、その多くが荒廃しています。
管理された里山里地は明るく見通しが良いため、害獣はこのような場所を嫌い寄り付きません。
そのため、害獣の生息域と人間の居住地を分けるバッファーゾーンとして機能していました。
しかし里山里地が減少したことで、害獣が身を隠しやすい荒れた土地が増え、害獣が人間の住む領域まで下りてくるようになってしまっています。
害獣の個体数の増加
害獣の中でも、特にシカとイノシシの個体数が増加しているという問題もあります。
特にシカの個体数の増加は顕著で、分布領域は前述したように約2.5倍に増えおり、個体数については、1989年と2020年を比較すると、2014年をピークに減少傾向が見られますが、約8.7倍もの個体数に増加しています。
日本のシカは江戸時代から明治時代にかけて、駆除や乱獲により個体数が減少しましたが、個体数を増やすためにシカの捕獲禁止措置がとられたため。1990年代から生息数が急増しています。
ジビエという形でSDGsの目標達成に貢献
害獣をジビエとして活用することは、害獣の被害に苦しむ日本の農山村を元気づけるだけではなく、市街地での生活の安全確保につながります。
また、地域の活性化やさまざまな課題の解決につながり、SDGsの目標達成につながると期待されています。
捕獲した害獣を自宅やレストランでジビエとして食するだけではなく、学校給食や農泊によってジビエを学んだり、人間の食料としてだけではなくペットフードとして利用したりすることで、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」、目標12「つくる責任・つかう責任」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の3つの目標達成に貢献することができます。
また、目標12「つくる責任・つかう責任」の達成のためのさらなる手段として、皮革まで余さずレザークラフトなどに利用する動きも出てきています。
しかし、ジビエとして害獣の肉を食べるためには、害獣を捕獲したハンターと飲食店を結ぶシステムが必要になります。
近年では、捕獲した害獣をジビエとして販売する企業も現れていますが、2022年には飲食店が狩猟者にジビエをオンライン注文できるサービスも誕生しています。
そのサービスは、「Fant」というアプリです。
「Fant」に飲食店が希望するジビエの情報を登録しておくと、その情報をもとにして狩猟者が狩猟を行うというものです。
ジビエを食肉として市場に流通させるためには、地方自治体が条例で定めた食肉処理業の施設基準を満たした施設で解体を行う必要があり、そのような施設は限られています。
この「Fant」は、捕獲した害獣を飲食店に出荷する前にこのような設備が整った施設で解体を行うというシステムも取り入れているため、今までよりもより手軽にジビエを楽しむことができるようになりました。
このようにジビエが身近なものになることで、前述したSDGsの3つの目標達成のためのスピードが加速していくことが期待されます。
まとめ
ここまで、害獣による被害の現状やその原因、狩猟が害獣の被害を防止するだけではなく、捕獲した害獣をジビエとして活用することでSDGsの目標達成に役立つという事について解説してきました。
ジビエは徐々に日本の食文化に浸透しつつありますが、まだまだ一般的ではありません。
狩猟者と飲食店や食肉販売店を結ぶシステムを構築し、ジビエの普及を促進することで、一個人でも食事を楽みながらSDGsの目標を達成できるようになるでしょう。
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