現在、地球上では多くの野生動物の絶滅が進行しています。

しかし、絶滅していくのは動物だけではなく、植物もまた同じであり特にシダ、裸子、被子植物などの維管植物の種の数も減少の一途をたどっています。

何もしなくても個体種は自然に減少していくものですが、現在の地球上では自然絶滅の500から1000倍の速度で絶滅が進んでいます。

その理由は多くありますが、その中でも大きな理由として挙げられるのが「農業」です。

農業は私たちの生活に欠かすことができない「食」を支えるものですが、実はこの農業が地球の生態系を破壊しているといわれています。

動植物と地球の環境を持続可能な方法で守っていくために、生態系を破壊しない有用植物の生産法として注目されているのが、今回紹介する協生農法です。

協生農法とは

協生農法とは、畑を耕さず自然界の天然供給物と必要に応じた潅水のみを行い、農薬を使用せず、種と苗以外は一切畑に持ち込まないという条件の下で、有用植物を生産する農法のことです。

植物の特性を生かした生態系の構築や制御を行うことで、栄養面の向上や生物多様性の回復、砂漠の緑化など、生態系全体に与える影響が考慮されているという特徴があります。

この協生農法では、さまざまな植物や野菜を無農薬で混成密生させて育てます。

そのため、農地には多くの虫がいたりさまざまな種の雑草が生えていたりしますが、「生態系の循環」に重きを置く協生農法では、これらは排除されることなく育てられます。

協生農法は、耕作可能な場所であればどこでも実践するのは可能ですが、一般的に人間や植物にとって厳しいといわれている環境で特に効果を発揮します。

日本は年間を通じて降水量に恵まれており気候も厳しくないため、放置していても雑草が生えてきます。

しかし、地球上には放置していると雑草すら生えてこない乾燥地帯や、成分が過剰であるため植物が生えにくい地域、日差しが強すぎて降水量が少ない地域、あるいは湿地帯でじめじめしている地域など、あまり農業に向いていない地域でも協生農法は従来の農業と比較して大きな力を発揮します。

協生農法が持つ貧困解決の可能性

協生農法はサハラ砂漠以南など、砂漠化や貧困に苦しむ西アフリカの多くの地域で、貧困や砂漠化の解消に貢献できる高い可能性があります。

これらのこれまで植物が育ちにくかった地域で、協生農法による有用食物の生産が可能になれば、貧困の解消につながるでしょう。

つまり、この協生農法は世界規模の社会課題解決の可能性も秘めているのです。
ここでは、ブルキナファソの例を見ていきます。

ブルキナファソでソニーCSLが行った協生農法プロジェクトでは、他の農法も含めて実践を行ったところ、協生農法による売り上げがひときわ大きく、ブルキナファソの平均国民所得の20倍にまで達しました。

さらに生産性に関しては、慣行農法の40~150倍にも上りました。

現在ブルキナファソでは国民の1%が協生農法を導入し、市場の構築ができれば国全体が経済的貧困から脱却することができる可能性があります。

先進国の支援による貧困解消は、その支援が途絶えた時点でまた貧困状態に戻ってしまう可能性が高いため、根本的な方法ではありません。

支援を必要とする国が主体的に貧困解消のための取り組みを行って初めて、持続可能な貧困解消を行うことができます。

そのため協生農法に関しては、基本的に情報提供のみを行っています。

協生農法を行うためには水と種が必要になりますが、それさえうまく確保できれば砂漠を緑化し生態系をうまく構築できます。

さまざまな場所で協生農法が広がる可能性

砂漠や乾燥地帯などの貧しい地域でも作物を育てられる協生農法は、日本でも広がりを見せています。

協生農法に興味を持つ人たちがそれぞれ住んでいる地域で自発的に実践している以外にも、2019年からシネコカルチャーとソニーCSLが共同で六本木ヒルズの屋上庭園で、都市部での協生農法実践の可能性を検証しています。

気候的に農業に適していて、協生農法が効果を発揮する「厳しい環境」ではない日本において、協生農法に取り組む理由は、情報や人、資本が集中する場所で協生農法に取り組み、その活動を知ってもらうことが非常に重要だと考えられるからです。

さらに、協生農法を教育コンテンツとして活用し、次世代の若者や子どもたちに体験してもらうことで、協生農法が普及していく可能性が広がります。

自然の中に身を置く心地よさや協生農法により作られた産物をおいしく食べるということに主眼を置きながら、協生農法の農法やその理論、生態系について学べる場所を都市の中に作ることで、次世代の子供たちも協生農法に興味を持ちやすくなるでしょう。

協生農法が自然に与える影響

協生農法は日本でも徐々に広がりを見せていますが、これを「自然を手に入れる」という行為ととらえ、中には批判的な目を向ける人もいます。

しかし、現在の食糧生産法は「自然を手に入れる」行為であり、人間の影響が全くない生態系は地球上にほとんど存在しません。

地球上の物質循環を考えると、人間活動の影響をすべて避けるのは難しいでしょう。

そのような意味では、すでにあらゆる場所において人間の手は入ってしまっているという解釈ができます。

人口が増え続けていく中で地球上の生物と人間が共生していくためには、あらゆる場所に影響がある人間活動によって生物を減少させることなく、むしろ増加させるような社会や生態系を実現する必要があります。

生物の多様性が史上最高の状態になることで、人間の想像を超えたことが起こる可能性はゼロではありません。

ただし協生農法によって、人間が破壊してきた地球上のさまざまな場所において生物の多様性を取り戻していくことで、生態系の再生と拡張を目指すことができます。

自然に手を入れずに現状を維持するのではなく、積極的に人間以外の生物も増やしていくことで、生態系の機能を高めるとともに持続可能性につなげることができます。

協生農法の「協生」の本質とは

協生農法の「協生」とは共に生きるという意味を持ち、一方的に損をする個体が存在している状態は共生ではありません。

しかし、たとえ損をする個体が存在するとしても、広い視野で自然環境を見ることで、全体では食料が生産され、生物の多様性が高まり、結果として環境は良くなります。

個々の種が協力して生きることが、協生農法の基本理念となります。

従来の農法において農薬で殺されていた虫も、捕食者でありながら同時に生態系の中でその役割を持っています。

農業を行うにあたって「邪魔者」とされる虫や雑草などを排除することなく、その役割を十分に発揮させることが、「協生」の真の意味だといえます。

まとめ

ここまで、協生農法について解説してきました。

協生農法には、一般的な農業を行うための農地に向いていない土地でも有用植物を生産できる、潅水以外の手間がほとんどかからない、生物の多様性を守ることができるといった特徴があります。

これらの特徴は、SDGsの目標1貧困をなくそう、目標2飢餓をゼロに、目標12つくる責任つかう責任、目標15陸の豊かさも守ろうの4つの目標達成に貢献しています。

協生農法は、今まで農業に向いていなかった土地を有効活用することで、貧困や飢餓に苦しむ人が多い砂漠地帯を有用植物の場に変え、また気候に恵まれた日本においても、生物の多様性を守れることから、今後さらなる広がりを見せていくものと思われます。

協生農法が広がっていくことにより人間の生活が豊かになるだけではなく、自然環境も豊かなものになっていくでしょう。

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