狩猟×IoT 獣害を減らし過疎化による人手不足も解消する取り組み

農作物被害の一つに獣害があります。
獣害への対処は、これまでは猟友会による猟銃をつかった対処と罠を使った対処がありました。

今回ご紹介する取り組みは、罠を使った対処にIoTを使った技術を取り入れて、獣害対処への効率化を実現させている山口県萩市での取り組みです。

獣害への対処は、持続可能な農業を実現するために不可欠な取り組みです。
実際にこの問題に実験的に取り組んでいる石田さんに、現状の問題点、実験の成果や今後の課題についてお話を伺いました。

罠による狩猟の問題点

罠の場所に見に行くまで、獲れているかどうか分からない

これまでの罠による狩猟では、罠を仕掛けた人が来るまで場合によっては何十分もかけて車で罠を仕掛けた場所まで行き、罠にかかっているかどうかを確認していました。
これは昨今のガソリン代高騰という意味で金銭的な負担になりますし、もちろん獲れていなければ時間を有効活用できていないことになります。

一度の罠で獲れるのは1頭獲れることが多い

これまでの罠の場合、獲れるのは通常1頭であることが多いです。これは罠に食いついたと同時に檻が閉められる仕組みが影響しています。
それも狙った獲物ではないこともあったりし、効率的ではありませんでした。

過疎化による人手不足

これは罠による狩猟だけの問題ではありませんが、過疎化している地域では獣害に対応する人員が不足しています。

罠による狩猟にももちろん狩猟免許が必要です。狩猟免許を取ることによって経費(概ね年間1万円から2万円程度)が掛かることも課題です。こういった金銭面の問題も存在します。
※初年度の取得時には自治体によっては補助が出ることもあります。

こういったハードルがある+人口減少により人手不足は深刻な問題になっています。

狩猟の経験がないとすぐに捕獲するのが難しい

猟銃による狩猟と同様に罠による狩猟も経験が必要です。始めてすぐに捕獲できる人は少なく経験者による手助けが必要となります。

狩猟×IoTで解決できる問題

では今回紹介する取り組みで前述した狩猟の問題点は解決できるのでしょうか?
現在実験的にIoTによる狩猟を行っている石田さんに解決できるもしくはできるであろう課題を聞きました。

罠にカメラを設置 見に行かなくても狩猟の成果がわかる

罠にカメラを設置して自宅から檻の中の様子を見ることが出来ます。これによりわざわざ車で見に行かなくても狩猟の成果が分かるようになりました。
これは狩猟を行う人の負担を大幅に下げることが出来、狩猟に参入するハードルを下げてくれます。

一度に複数頭捕獲も 狙ったタイミングで檻を閉める

カメラによる監視を可能にしたため、カメラでどのような動物が檻の中にいるかがわかります。
また遠隔操作により檻を閉めることを可能にしたことによって、これまでは最初に罠にかかった1頭しか捕らえることが出来なかったのを、数頭が檻に入ったタイミングを狙って檻を閉めることにより複数頭を一気に捕らえることが出来るようになりました。
これにより何回も罠を仕掛ける必要もなくなり効率化が図られています。

またここで重要なのは対象とする動物の親を捕獲することです。この親を捕獲しない限り繁殖を止められないというのが大きな理由になります。
何もしなければ、繁殖が続き頭数は増える一方になってしまいます。
その親を狙えるのもこの取り組みの良い点の一つです。

さらに良い点は、対象以外の動物(例えば狸など)による誤作動も防ぐことが出来ます。

もちろん遠隔操作での檻を閉めるのではなく、自動で檻を閉めることも可能です。
動物が檻に近づいたり、罠が作動したらLINEなどで通知を受け取ることが出来るという点も、利便性が高く現代に即した仕組みとなっています。
また決まった時刻に檻の様子を画像で通知する機能などもあります。

過疎化による人手不足への対応

今回の取り組みでは、時間の効率化という意味でかなりの成果を上げています。それは少ない人数でも対応できることを示しています。
またこれまでハードルが高く見えた狩猟ですが、IoTの技術を取り入れることによりハードルは低くなります。

狩猟の経験不足をIoT技術でカバー

今回の取り組みでは石田さんは狩猟免許取り立てでしたが、今年(2022年)に入って既に8頭の捕獲に成功しているとのことでした。
これは初心者としては珍しく、石田さんも驚きつつも作成した罠の成果に手ごたえを感じていました。

人間と動物の生活エリアの棲み分け

罠を設置する前と後では人の住む地域までイノシシなどの動物が入ってくる頻度が減ったとのことでした。
罠をはり動物にここは危険なエリアだと知らせることで、人間との生活圏を棲み分けることが出来てきているということでしょう。

今後の課題

狩猟×IoTの技術普及

現在は実験的に行っているこの取り組みですが、普及させるのに課題があります。
まず初期費用で檻を購入するのに5万~10万円程度はかかるとのことでした。
またIoTを導入するには機器の費用や通信費用がかかります。
この課題をクリアしなければ、多くの人に使ってもらうには至らないと考えられます。

罠設置場所の電波に課題

罠を仕掛ける場所は、沢や谷筋が多いとのことでした。しかし場所的に電波が入りづらいのが課題としてあります。
電波が入らなければIoT技術を使用することが困難になります。
現在はLPWAという独自の通信規格があり、その通信で試行錯誤している最中です。

狩猟人口の減少

狩猟を担う人出不足も課題です。
若者に狩猟への関心を持ってもらうことが必要と考えられます。

石田さんは、罠の映像を公開し若者に見せるなどし狩猟に興味関心を持ってもらいたいとも考えているそうです。
若者の副業といったアプローチの仕方も考えられるのではないかとも語っていました。

しかしそれには、狩猟を始めるハードルを低くし、現在実験的に取り組んでいるIoTツールをもっと身近に手軽に改良する必要があると考えているとの事でした。

実現すれば、将来的に若者たちが遠隔で狩猟をするというのも一つの解決策になるかもしれません。

まとめ

獣害問題について、IoTの技術を使い実際に取り組んでいる石田さんの取り組みはいかがだったでしょうか?
実際に成果も出ており、将来的な発展・広がりに期待したいですね。

またこれまで狩猟と縁が遠かった若者へのアプローチは、狩猟による実益と地域貢献を両立できるものであり、IoTによる罠の発展によりハードルは低くなるものと考えられます。

この取り組みは地方の若者に新たな収入源をもたらし、日本の里山を守る、さらに持続可能な農業へ貢献するものとなるのではないでしょうか。

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