サステナブル・ツーリズム~旅に求められる持続可能性~

コロナ禍が去り、旅行に行きたくても行けなかった人々が、今一斉に旅行を楽しんでいるかのように、世界中の観光地は人であふれています。
しかし、このように旅行客が観光地に訪れることで、新たな問題も発生しています。
この問題を解消し、観光地を美しく保ち続けるために「サステナブル・ツーリズム」が提唱されています。

サステナブル・ツーリズム、持続可能な観光とはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、サステナブル・ツーリズムについて解説していきます。

サステナブル・ツーリズムとは

国連世界観光機関(UNWTO)によるサステナブル・ツーリズムの定義は、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」です。

これを分かりやすく言い換えると、ツーリストや観光関係事業者、ツーリストを受け入れる地域にとって、環境・文化・経済の3つの視点から、持続可能かつ発展性のある観光の在り方をめざすというものです。
旅行人口が増加したために、さまざまなデメリットが発生したことから、このような概念が生まれました。

観光地や観光そのものを、楽しく美しいものとして保つため生まれたのが、サステナブル・ツーリズムの概念なのです。

観光地が抱えている問題点

観光は、ある一定の時期までは富裕層のものでした。

しかし、第二次世界大戦後の経済発展を経て人々は豊かになり、観光が大衆化し、この現象は日本でも1970年に開催された大阪万博を皮切りに一気に広がりを見せました。
この観光の大衆化現象を、「マスツーリズム」といいます。

しかしこのマスツーリズムによって、自然環境の破壊、地域文化の侵害、治安の悪化といった問題が深刻化しています。
また、観光地のキャパシティを超えて人々が観光地に押し寄せる現象である「オーバーツリーズム」も、昨今では耳慣れた言葉となりました。
クルーズ船などでひとつの観光地に大量に人が訪れることで、トイレなどのインフラ整備が必要になり、このようなインフラへの負担、渋滞、景観の損失、ゴミの増加などの問題が発生しています。

このような問題を解決するために提唱されたのが、「サステナブル・ツーリズム」です。

サステナブル・ツーリズムを推進する際に重要視される4つのポイント

サステナブル・ツーリズムを効果的に推進するためには、重視するべき4つのポイントがあります。
ここでは、その4つのポイントについて解説していきます。

環境と文化の維持

サステナブル・ツーリズムが重視するのは、環境と文化の維持です。
観光が大衆化し観光客が増加した一方で、観光地の需要も高まりました。
その需要に応えるために無理な開発を進めた結果、自然破壊や観光客の増加によるごみ問題が発生するなど、自然環境の悪化が懸念される事態が多くの観光地で起こっています。
このような問題を防止するために、自然環境と地域文化の維持を第一に掲げ、観光振興に取り組む必要があります。

地元住民への配慮

地元住民への配慮も、サステナブル・ツーリズムにおける重要なポイントとなります。
外部から資本が投入され観光地化が進めばその地域は経済的に潤いますが、ごみ問題や交通渋滞、騒音問題などにより観光地で生活する人々の快適な暮らしが損なわれてしまいます。
そのため地元住民の生活環境を守る取り組みも、サステナブル・ツーリズムには欠かせません。

伝統文化を守る

サステナブル・ツーリズムを推進するうえで、伝統文化の持続可能性も欠かせないポイントです。
例を挙げると、長年続いてきた祭りなどの行事や食文化、工芸自術などの伝統文化は、一度損なわれてしまうと、再生するのは非常に困難です。
このような伝統文化に光を当て、観光に上手に活用することで、新たな観光資源となり次世代への継承も可能になります。

温室効果ガスの削減

サステナブル・ツーリズムに限らず、温室効果ガスの削減はさまざまなシーンで削減のための努力が行われており、世界各国が自国に課せられた義務の履行に努めています。
観光業界においても、観光客の移動の際にはバスではなく電車を利用する、電気自動車の利用促進、温室効果ガス削減のための努力を行っている旅館やホテルを利用するなどの取組みが行われています。

日本におけるサステナブル・ツーリズムの成功例

サステナブル・ツーリズムの取組みはすでに始まっており、実際に成果を上げている観光地も多くあります。
ここでは、日本におけるサステナブル・ツーリズムの成功例を紹介していきます。

みなかみ町(群馬県)

群馬県のみなかみ町は江戸時代から続く温泉地ですが、近年では不景気のあおりを受け観光客の減少に悩んでいました。
しかしみなかみ町に流れる利根川流域を活かし、自治体を上げてのラフティング事業をスタートさせました。
自然を守りながら安全にラフティングを楽しめるよう、町は「みなかみ町アウトドアスポーツ振興条例」制定し、環境整備に取り組んでいます。
またインバウンド向けに多言語に対応したパンフレットの作成や、町内のWi-Fi整備などを行った結果、現在では国内外から多くの観光客が訪れています。

出羽三山(山形県)

かつては、出羽国と呼ばれていた山形県にそびえたつ羽黒山、月山、湯殿山の3つを総称した出羽三山。
ここでは、僧侶の山での修行や巡礼体験を行うことができ、人気を博しています。

ニセコ町(北海道)

北海道のニセコ町と言えばスキーで有名な観光地ですが、近年ではインバウンドの増加も目立っています。
このニセコ町は、豊かな観光資源を保全しながらも、バランスよく農業や観光を両立していくために、住民の声の拾い上げを行いながら街づくりを行ってきました。
このような方法で街づくりを行ってきた結果、国際世界観光機関(UNWTO)から、「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」として表彰されています。

にし阿波エリア4市町村(徳島県)

徳島県西部の「にし阿波エリア」では、地域連携でDMO(観光地域づくり法人)を立ち上げ、伝統的な傾斜農法や農業文化を地域資源として活用しています。
サステナブル・ツーリズムの立ち上げでは、オンライン予約の環境整備やインターネットでの情報発信、多様な決済手段への対応が課題となりましたが、体験コンテンツの申し込みや決済に対応できる独自のシステムを活用し、コンテンツ提供側の負担軽減に成功しました。
このシステムの活用は異なる事業者間の連携やインバウンドの誘致に活用され、地域活性化に役立っています。

あるがままの観光地を未来へ

観光地は、風物や景色などの名所として多くの人々が訪れる場所です。
その土地の魅力を体感しに多くの人々が訪れますが、観光地の魅力を保ち、高めていくためには、人間の手でその価値を保全していく必要があります。

また、同時にそこで生活する人たちの快適な生活も保たなければなりません。
観光地を持続可能なものにしていくためには、観光に訪れる人とそこで生活する人、双方のニーズを満たす取り組みを怠ってはならないのです。

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