長崎県佐世保市に位置するテーマパーク、「ハウステンボス」。
このテーマパークの前身は、同じ長崎県内にあった「長崎オランダ村」です。
ハウステンボスはオランダの街並みを再現し、ヨーロッパ全体をテーマとしていて、東京ディズニーリゾートの1.5倍の敷地面積があります。
多くのドラマや映画、CMのロケ地としても有名ですが、現在に至るまで何度かの経営危機に直面し、経営母体の変更が行われました。
このようなハウステンボスですが、1992年のオープン時から「1000年の街」を実現させるための設備を備えており、経営母体が変わりアトラクションの増加や変更が行われても、この設備はさらに進化し、自然と共存する「持続可能なテーマパーク」として成長を続けています。
ここでは、開園当時から続くハウステンボスの持続可能性を実現するための取り組みを紹介していきます。
配分の時代となる21世紀のニーズを満たした取り組み
1950年に約26億人だった地球上の人口は、2024年の時点で約60億人へと増加しています。
このような状況下では、利用可能な水やエネルギー、そして食料に至るまで不足する可能性があり、これらをめぐる国家間の争いが起こるのではないかと懸念する向きもあります。
食料に関しては、食料の増産を目指す必要がありますが、それ以外にもフードロスの削減という方法である程度この問題を解決できるでしょう。
また、水は浄化して再利用、エネルギーはクリーンエネルギーの導入や節電などの方法で、人ひとりが必要とする量を低く押さえることができます。
このように、人ひとり当たりが必要とする生活や娯楽に必要な資源の量を低く押さえることで、多くの人が平等にその恩恵を享受できるでしょう。
ハウステンボスは、そのためにさまざまな取り組みを行っています。
以下に、ハウステンボスの取り組みについて紹介していきます。
水に関する取り組み
多くの来場者が訪れる場内から多くの汚水が出るのは、当然の事です。
ハウステンボスでは、開業当初から場内で発生した汚水は場内で浄化し、自然に還元するだけではなく、「中水(ちゅうすい)」として、トイレの洗浄水や植物への散水などに利用されています。
生産される中水は2,700トンにも上り、場内で利用された後は再度下水道へ送られて浄化されるため、ハウステンボスは「水がめぐり続ける街」でもあるのです。
環境への取り組み
大地と水が接する水際は、陸と水中の双方の生物環境にとって、非常にデリケートな部分です。
水際は、水深が浅いため太陽光と酸素に恵まれていることから、豊富な生物社会が形成されています。
ハウステンボスでは、この水際に自然石の護岸を採用しています。
その理由は、コンクリートの護岸では、生物の多様性を守れないからです。
また、ハウステンボスのプロジェクトが発足した当時から、周囲の自然との調和が第一のテーマと考えられていたため、40万本の樹木が植樹されました。
ハウステンボスを囲む外周部には快適な生活を保つ常緑樹が、園内の街路樹には季節によってさまざまな表情を見せる落葉樹が植樹されています。
酸素を生み出しさまざまな生態系が宿るこの森は、循環型社会の原点という位置づけがなされています。
エネルギーに関する取り組み
施設内で利用されているエネルギーは、天然ガスと電気です。
ハウステンボスの設計段階では、最も環境にやさしい熱源が天然ガスであるとされていたいため、天然ガスが採用されました。
天然ガスを利用してタービンを回転させ発電し、その排熱までも利用して175度の蒸気を作っています。
この排熱を利用して作られた蒸気は暖房に利用され、冷房にはこの蒸気を蒸気吸収式冷凍機の熱源として7度の冷水を作り、冷たい空気を作るという徹底したエネルギーロスの削減が行われています。
電気の大部分は電力会社から購入して賄っていますが、1999年より「先導的高効率エネルギー・フィールドテスト事業」に参画し、この事業が軌道に乗れば熱効率80%の達成が可能です。
また、現在では試算の段階ですが、太陽電池に関する研究もおこなわれています。
フードロスに対する取り組み
ほとんどのテーマパークには、「食」の楽しみがあります。
ハウステンボスではバイキング形式の食事を提供している施設もありますが、そこには「フードロスご協力お願いします」との案内表記を提示し、来場者に協力を求めています。
また、土産物の購入も来場者の楽しみのひとつです。
しかし食品の土産物には当然賞味期限があり、賞味期限が近付くと売りものにならないため廃棄してしまうテーマパークも存在します。
ハウステンボスでは、このような賞味期限が迫った食品の土産物をインターネット上で定価の最大半額の価格で販売しています。
販売されている商品はミネラルウォーターや菓子類、チーズ、ワイン、ソーセージなどで、3,980円以上購入すると、送料無料で商品の購入が可能です。
ハウステンボスはこのような方法で、食品ロスの課題にも対策を行っています。
ごみに対する取り組み
一日平均7トンのごみが、ハウステンボス内から出ます。
ハウステンボスではゴミは分別を徹底しており、その項目は紙ごみだけに目を向けても15種類に上ることから、その徹底ぶりがお判りいただけるでしょう。
そして細かく分別されたごみは再利用され、再利用できなかったもののうち値段がつくものは業者に販売して利益を得るという方法をとっています。
また生ごみに関してはコンポスト処理を行い、すべてをたい肥にして場内の花壇などで再利用されます。
経済と環境の共生を目指して
ここまで、ハウステンボスの持続可能な街づくりのための取り組みについて解説してきました。
この取り組みは、まだSDGsという言葉すらない1990年着工当時に行われたインフラ設備から始まったと考えるべきでしょう。
そしてごみ処理システムやフードロスをなくす取り組みも加わり、進化を続けることでさらに強くSDGsの目標達成に貢献してします。
ハウステンボスは、テーマパークである以上収益を上げる必要があります。
しかし収益のみだけでなく、周辺環境との共存についてもしっかりとしたビジョンを持っているのが、このハウステンボスです。
ハウステンボスは設計の時点で、水やエネルギーなどエコロジーの問題について、非常に先進的な視点を持っていました。
今後考えられる地球上のさまざまな問題を解決するために、今現在行われている対策が「やりすぎ」だと思われてケースもあるかもしれません。
ハウステンボスの設備も、当初は「やりすぎ」という意見もありました。
そのような取り組みも、ハウステンボスのようにスタンダードになる日が来る可能性は十分にあります。
地球が抱える問題を解決するためには、先の先を見据えた取り組みも考えていく必要があるのかもしれません。