SDGs「6.安全な水とトイレを世界中に」水道インフラを守る企業事例

日本の水道水は世界でもトップレベル。水道水をそのまま飲める国は、日本を含め世界でたった12カ国しかありません。筆者自身も海外に行くと毎回「日本の水道水は安全だ」と実感しています。

しかし、日本の水道インフラの未来は危ぶまれているのです。国内において水道管の老朽化が原因による漏水事故や断水が相次いでいます。

日本は具体的にどのような問題を抱えているのでしょうか。この記事では日本の水道インフラの問題を解説します。またSDGs「6.安全な水とトイレを世界中に」に貢献する企業事例もまとめました。水道インフラの未来について一緒に考えましょう。

日本の水道管が老朽化

安全安心な水が飲める国である日本。けれども、各家庭に届ける役割を担う水道管の老朽化が問題になっています。

①埼玉東松山市

2023年8月4日午後、埼玉県東松山市でマンホールから大量の水が噴き出しました。原因は水道管内の空気を抜く部品「空気弁」が破損したからでした。

市によると、水道管は1979年に設置。耐用年数は約50年ということです。

②静岡県浜松市

2023年8月4日午前3時ごろ、静岡県浜松市西区伊左地町で水道管の漏水事故が発生しました。高さ20メートル近くまで水が噴き出したそうです。

市水道工事課によると、原因は同市西区を中心に配水している上水道の水管橋。器具の一部が破損したと考えられています。水管橋は1990年に設置にされました。

③北海道札幌市

2022年12月9日未明、札幌市内で水道管から水が漏れる事故が発生。復旧作業の影響で、71戸では8時間半にわたって断水が続きました。

市の報告によると、原因は水道管の亀裂。鉄製の水道管の下部に長さ20センチの亀裂が確認されました。

この水道管は1972年に設置。50年以上経っているものの、更新の時期まで約10年残っていたそうです。

増加する水道管破損事故数

近年、水道管などが破損して漏水する事故が相次いで発生。その数は年間2万件以上といわれています。その原因の多くが水道管の老朽化。40年ほど経っているものが何らかの理由で破損しているのです。

日本は蛇口をひねっても水がでない未来がくるともいわれています。水道インフラが危機に直面しているといえるでしょう。

水道インフラが危機となっている原因とは?

これまでは国内の水の問題といえば、水質の安全性や水不足が懸念されていました。けれども水道インフラの危機が高まっています。では、どうして老いて破損する水道管が相次いでいるのでしょうか。

水道管の更新が追いつかないため

2017年時点で日本の水道普及率は98.0%。その距離は「地球 18.5 周分」に相当します。これは地球と月を往復できる距離です。

そのうち、40年以上経っている水道管はどれくらいあるのでしょうか。実は令和2年時点で「20.6%」。年々増加傾向にあります。

一方で、1年間で管路を更新した割合を表す「更新率」は年々低下。令和2年は0.65%にとどまっています。つまり、このままでは老朽化の進行は止められません。

経営状況の悪化

水の使用量が減ることで水道代としての収入が減っているのも原因の一つと考えられます。水道事業は、原則水道料金で運営されています。水道事業の収益が減少すれば、経営状況も厳しくなるのです。

背景にあるものは人口の減少です。日本の人口は2008年に「1億2,808万人 」をピークに減少しています。それに対応するように国内における水の使用量は2000年にピークを迎え、その後は減少に転じています。2040年にはピーク時より4割減少するのではないかと懸念されているのです。

収入減の視点でみると、2011年から2016年の5年間だけでも4000億円の減収したといわれています。

SDGs「6.安全な水とトイレを世界中に」に貢献する事例

続いては、水道インフラの危機を解決に努める企業を紹介します。大手企業からベンチャー企業まで幅広い層が問題意識をもって取り組んでいるのです。

①ソフトバンク

ソフトバンクは、水インフラの維持の問題にも積極的に取り組んでいます。

2021年5月に、「人と水の、あらゆる制約をなくす。」というビジョンを掲げるWOTA株式会社との資本・業務提携を発表。WOTAが手掛ける水循環型手洗い機「WOSH」の販売を開始しました。

WOTA株式会社はAIやIoTを活用した先進的かつ独自性の高い水処理技術を持つ企業です。独自開発したIoTセンサーで水質項目を計測。AIがビッグデータを基に最適な再生処理プロセスを導き出します。これにより水道がない場所でも安全な水を繰り返し供給できるのです。

出典:AI、IoTを活用した再生技術で、持続可能な“水”インフラを社会に広げていく

②HITACHI

日立はこれまでに下水道事業において、処理場の施設や設備、監視制御システムなどを数多く納入してきました。そこで培ったノウハウと最先端テクノロジーを融合することで、水道インフラが抱える問題解決に挑んでいます。

例えば、人手不足や熟練技術士の高齢化をデジタルソリューションでカバーしています。運用データからAIを用いた強化学習を実施。何十年も携わっている熟練者と同じ運転ガイダンスを出力して、運転管理を支援します。その結果、オペレーター不足を解消できるのです。

豊富な経験と「IoT」「AI」「ビッグテータ」などのテクノロジーをかけ算して未来に貢献する事例といえるでしょう。

出典:SDGsの達成に向けて 下水道事業が抱える課題を「IoT」「AI」「ビッグデータ」で解決します。

③クボタ

クボタは、水道管の老朽化に危機意識をもち、次世代に安心で安全な水を届ける活動に努めています。農業機械のイメージが強いですが、水道工事は国内外で実績があります。水道インフラに関する活用内容は以下の通りです。

  1. 水事業運営の効率化(広域化・官民連携)
  2. 水インフラの運転・維持管理の省人化・省力化(自動運転、遠隔監視等によるスマート化)
  3. 適切なメンテナンス・更新提案による施設のライフサイクルコスト低減
  4. 管路・施設の耐震化・強靭化(インフラのレジリエンス向上)

これまで自治体が行ってきたことを民間へ委託する「官民連携(PPP:Public Private Partnership)」の動きを後押ししているといえるでしょう。

クボタはIoTを駆使した独自のソリューションシステムを活用。浄水場や水道管、下水処理場やポンプ場などのデータをAIで解析することで、各施設における故障の可能性をいち早く見つけ出すことに成功しました。冒頭で紹介したような漏水事故を防ぐことが期待できます。

出典:次世代に安心で安全な水を届ける

④メタウォーター

メタウォーターは日本初の水・環境分野における総合エンジニアリング企業として設立されました。機械技術や電気技術、ICTを駆使して、国内外の水道、下水道、資源環境の各分野で事業を展開しています。

例えば、2008年に横浜市から受託し、2014年から川井浄水場「セラロッカ」を稼働。最新技術とノウハウを融合させることで、効率化、省コスト、環境負荷軽減を実現させました。

また宮城県にある「フィッシャリーサポートおながわ」では、宮城県女川町の水産加工団地の排水を一括して処理や管理する事業を担っています。排水処理システム「加圧浮上+循環式硝化脱窒法」を導入することで、水産加工排水を一括して処理を可能にしました。そのおかげで、女川湾の水質が守られています。

このように公民連携プロジェクトに積極的に参画している点も高く評価されているのです。

またトラックに発電設備と浄水設備を搭載した「車載式セラミック膜ろ過システム」を開発しました。1台で1日あたり最大6000人分の水をつくり出せるといわれています。このトラックさえあれば、どこでも安全な水が飲める環境が生み出せるのです。

出典:公民連携への取り組み

⑤フラクタ

フラクタは加藤崇がカリフォルニア州シリコンバレーで創業したスタートアップ企業です。機械学習技術を活用しながら、水道管の劣化を診断するオンラインツールを提供しています。

配管素材や使用年数、過去の漏水履歴などのデータと、独自に収集した土壌・気候・人口などの膨大なデータをかけ合わせて、水道配管がどれくらい破損するのかを解析できるサービスを開発しました。

AI予測があることで水道管業者は破損確率の高い水道管を把握できるため、老朽化が進んでいるものから更新できます。効率的に更新できるため、未然に漏水事故も防げるのです。

出典:フラクタ

これらの事例はSDGs「6.安全な水とトイレを世界中に」に貢献しているといえるでしょう。

おわりに

世界でみても、水道水を安心して飲める国は多くありません。だからこそ、日本人の水道への危機意識が低いとも考えられます。けれども、自由に水道が使えない未来が訪れる可能性はゼロではないといえるでしょう。2023年現在でも老朽化した水道管が破裂し、断水が発生した事例が相次いでいるのです。

水道インフラの問題を真摯に受け止め、解決に向けて挑戦し続けている企業がある。この事実をまず知ることが持続可能な社会の実現への一歩といえるのではないでしょうか。

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