給食で持続可能な農業を実現する長野県松川町の取り組み

現在、給食の費用は一食何円程度で提供されているかご存じでしょうか?

その価格は、なんと一食およそ250円。

小学校低学年の生徒であれば十分な量が提供できるかもしれませんが、高学年になると多くの量を提供する必要が出てきます。

また、近年では物価高騰も進んでおり、食材も安価なものを使用しながら栄養バランスがとれた給食を提供することも重要です。

この給食の問題と、地域の農作物を利用して双方の問題を解決したのが、長野県松川町です。

ここでは、長野県松川町がどのような方法でこの2つの問題を解決したのかについて解説していきます。

長野県松川町が抱えていた農業の問題

長野県松川町が抱えていた問題とは、農家の高齢化や人口減少によって徐々に遊休農地が拡大し、その遊休農地をどのように活用するかということでした。

これは農地が多い市町村ではどこでも抱えている問題ですが、長野県松川町でも優良農地を家庭菜園のような形で「一人一坪農園」として貸出し、近隣の方の野菜作りの一助になればと考えていましたが、遊休農地の拡大はその活用法では間に合わないほどに加速していきました。

その解決法として考えられたのが、有機野菜の栽培です。

松川町の学校給食が抱えていた問題

松川町の学校給食の現場では、地産地消率の低下が問題になっていました。

国は、「食育」の一環として地産地消を掲げていますが、松川町の場合には既存の農家が抱えている問題として、圧倒的に果樹が中心であったということがありました。

そのため、それ以外の農作物は作っているところもなければ入ってくることもないため、地産地消を行うことが難しいという状態でした。

しかし、松川町で有機野菜の栽培が始まると、徐々にこの問題は解決されていきました。

栽培した有機野菜を学校給食に活用

松川町で有機野菜の栽培が始められた当初の目的は、有機栽培や自然栽培の技術の伝達の取り組みによる人口増加や、地域内での循環型農業と地産地消の推進でした。

それに加えて令和元年より県からの支援を受けて、環境保全型農業への取り組みも始めました。

このような活動を行う中で、松川県産の有機野菜を活用した給食を提供しようと、令和2年に「ゆうきの里を育てよう連絡協議会」が発足し、栽培した有機野菜の学校給食への提供を始めました。

ゆうき給食とどけ隊の取り組みは、松川町が持続可能な地域となるために、200haある遊休農地対策を含め、農ある暮らしで健康な生活を目指すということです。

「松川町ゆうき給食とどけ隊」は、その実働農家グループとなります。

松川町ゆうき給食とどけ隊は、農薬や化学肥料を使用しない有機栽培で農作物を育て、子どもたちにおいしく新鮮な地元野菜を提供しています。

遊休農地対策として学校給食を軸にした理由

遊休農地対策は、持続的に行われる必要があります。

その方法を探る中で、学校給食にフォーカスを当てればさまざまなジャンルの人たちが同じ方法を向くのではないかと考えた、と松川町町長の宮下智博氏は言っています。

町長自身もリンゴ農家の出身であり、慣行農業と対立させることのない同じ地域での有機農業の推進が課題となるが、世界的な流れを見ても今の方法を変える転換期に来ているのではないかとも語っています。

また、学校給食に有機栽培の作物を使用することで、有機栽培の作物が持つ特別感がなくなり、給食として提供され地域の中で回っていることも地域の持続可能性を高める一因となっています。

有機野菜が給食に使用されたことによる効果とは

有機栽培の農作物を給食に利用することには、さまざまなハードルがありました。

それは食材の規格や納期、量などの制約です。

この制約をクリアするのは、一般の農家の場合であっても難しいのが現状です。

松川町ゆうき給食とどけ隊は毎月一回、食材を収めている町内3つの小中学校の栄養士と打ち合わせを行い、二か月先の収穫予想を提示しながらメニュー作りを進めてもらうという方法をとっています。

また、松川町ゆうき給食とどけ隊が学校を訪問し給食見学会を開いたり、子どもたちに向けて生産者のメッセージを校内放送で流してもらったりという活動も行うことで、子どもたちが生産者の思いを知り、食べ残しが減るなどの目に見える成果が出るようになりました。

この中の生産者のメッセージの中では、生産者の名前まで紹介されます。

一般的に有機栽培の農作物と言えば一般の農作物よりも割高なイメージがありますが、松川町ゆうき給食とどけ隊が生産者と学校給食を結んで作られた給食の費用は、近隣の市町村とほぼ変わりはありません。

また、給食現場で働く方も実際に畑を見学することもあります。

調理員を町が直接雇用していることもあり、栄養教諭と調理員、生産者が栄養に富んだおいしい給食を子どもたちに届けようと心を一つにして工夫していることも、有機栽培の農作物の魅力を引き出す要因の一つになっています。

また、松川町は学校給食に有機栽培の農作物がつかわれることも、給食を安価に提供できる要因となっています。

町内産の有機野菜を学校給食に使用すると、農業振興予算から補助金が出る仕組みになっています。

その補助は野菜の場合は4割、栽培が難しい米の場合は7割となっています。

この補助のおかげで、学校側は食材を安価に調達できます。

学校給食に補助金が出る理由

なぜ、松川町では給食の補助金に農業振興予算が使用されているのでしょうか。

その背景には、松川町の農業が抱える課題があります。

松川町はリンゴや桃などの果物の栽培が盛んですが、近年では農業の担い手不足などが原因となり、遊休農地が非常に多くなっています。

他の場所では、このような遊休農地に太陽光発電のパネルを設置するなどの方法で活用しているところもありますが、町の農業振興係はできるだけ農地として活用し農業の衰退を食い止めることが重要だと考えた結果、農業振興予算を給食の補助金として活用しています。

また、収穫した有機作物を学校給食に利用することで、農家の経営の安定するでしょう。

このような理由から、学校給食として使用される松川町産の有機栽培の農作物に補助金が出て、松川町の農業を守っているのです。

まとめ

地元で生産した農・畜産物などを地元で消費する「地産地消」ですが、これには輸送コストがかからないため安価に消費者の手に届く、身近な場所から新鮮な農・畜産物を手に入れることができる、などのメリットがあります。

松川町が行っている有機栽培の農作物を給食に使用するという取り組みは、地産地消から得られるメリットの中でも食と農について親近感を深めるとともに、生産と消費の関りについて理解を深めることができるというものが、一番のメリットであるといえるでしょう。

遊休農地を他の方法で活用するのではなく、あえて農地として利用し生産者や消費者である子どもたちにメリットが多いこの方法をとることで、SDGsの目標15のである陸の豊かさを守ろうに貢献することができます。

松川町の生産者と消費者である給食を結びつける活動を進めることで、持続可能な農業を発展させることができ、子どもたちの地域に対する愛着を育てることもできるでしょう。

最新情報をチェックしよう!