SDGsの目標9に、「産業と技術革新の基盤を作ろう」というものがあります。
この産業と技術革新の二つの項目のうち、産業については持続可能なものでなければなりません。
では産業と持続可能な産業とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、持続可能な産業はどのようなものかといったことや、持続可能な産業を実現するために必要なさまざまな取り組みについて解説していきます。
産業化とその先にあるもの
SDGsの目標9の中のターゲット2で使われている「産業化」という言葉は、「industrialization(インダストリゼーション)」の日本語訳です。
この産業の意味を考える際には、人類の歴史を振り返る必要があります。
人類の社会は、狩猟収集社会から農耕牧畜、農業社会、工業社会を経て、情報社会に至ると考えられています。
狩猟収集社会とは、簡単な道具を使用して動物を狩り植物を集めて暮らす小規模な社会、農耕牧畜・農業社会とは道具を用いて動植物を育て食料を確保する社会、工業社会とはエネルギー源を動力とする機会を用いて農耕牧畜・農業社会よりもさらに多くの人口を養う世界、情報社会とは現在の日本国内のようにサービス業や情報産業の占める割合が高い社会のことを言います。
現在の先進国が一歩先に成し遂げた工業社会では、自分たちの安全を守るために経済力や軍事力を競い合ってきました。
その結果、さまざまな技術が発達したと同時に、人体や地球に悪影響を及ぼす公害が問題となり、自然の修復力では追い付かないような地球温暖化などの負荷を地球に掛けることになりました。
今後現在の途上国が今までの先進国と同じような工業化や産業化の道をたどる場合、地球にかかる負荷はさらに高いものになってしまいます。
このような方向に人類の産業化が進んでいくと、産業の持続が不可能になってしまいます。
産業化と持続可能な産業化の違いとその実現のために必要なこと
前述したように今までのような産業化及び工業化が進むと、地球に大きな負荷がかかってしまい、地球温暖化による気候変動などにより人間の子孫が生き残ることが難しい世界になってしまいます。
そこで提唱されたのが、「持続可能な産業化」です。
持続可能な産業化は、現在産業化のシステムが確立している先進国と今後工業化と産業化が見込まれる途上国が環境に配慮を行い、地球にかかる負荷を軽くしていくためのものです。
現在のところこの持続可能な産業化は、先進国がメインとなって提唱していますが、いくら先進国が声を大にしても、途上国は環境にかかる負荷について配慮する以前に、安定的で安全な豊かな暮らしを優先することもあるかもしれません。
持続可能な産業化を実現するためには、先進国を途上国の環境に対する負荷が高い産業が支えている現状を変えるべく、まずは先進国の人々が自分のライフスタイルを考え直すことが重要になります。
持続可能な産業化が必要とされる理由
貧困問題を解決するために重要な働きをするのが、産業化です。
経済学には「ペティ・クラークの法則」というものがあり、これは経済発展により中心となる産業が第一次産業から第二次産業、第二次産業から第三次産業へと変わっていくという法則のことを言います。
この産業の変遷を、「産業構造の高度化」といいます。
このように産業が変遷していくことにより地球にかかる負荷は大きくなっていきますが、その負荷を最小限のものにするためにも「持続可能な産業化」を行うことで、環境問題の解決を行い、さらに貧困問題の解決も目標とされています。
持続可能な産業化を実現するために政府が行うべき政策
持続な能な産業化を実現するために、各国の政府はどのような政策を行うべきなのでしょうか。
ここでは、その政策について解説していきます。
平等の促進
社会の持続可能性は、公平、平等、正義、人権、文化、地域社会の尊重から始まります。
国連の人権宣言とILOの労働基準は、これらの価値の多くを明確に述べています。
持続可能性は、不平等という問題に取り組まなければなりません。
低賃金の競争によってではなく、生産性の向上がその貢献者に恩恵を与えることを担保する団体交渉の促進によって、不平等の解消に取り組む必要があります。
このようにして賃金が上昇し、そして産業と社会の安定に寄与することで、不平等を減らして生産する製品の需要をかきたてます。
持続可能な産業政策とは、労総者と資本の競合する利害を仲裁する効果的な労使関係の発展に深くかかわっています。
技術の利用
持続可能な産業政策に必要なのは、気候変動などの問題に取り組む環境にやさしい技術を奨励する戦略を立てることです。
持続可能な産業政策に必要な技術開発は労働者に恩恵を与え、作業を容易にするとともに生産性の増加を導くものでなければなりません。
技術開発が労働者のやる気を起こさせない、単純作業の、疾病やけがを生じさせる反復作業の減らすためだけに、または雇用を削減するために使われるべきではありません。
労働基準の推進
持続可能な産業政策とは、労働基準の有効な実施を含むものです。
これは団体交渉の促進や、労働監督のための要員体制、産業及び企業と労働組合間の対話の促進、不安定雇用を制限する労働法を含みます。
開発に関するすべての国際機関とは、法律によって権限を付与された権利として結社の自由と団体交渉を促進する必要があります。
さらに持続可能な産業政策は、失業や定年、健康保険制度に取り組む社会福祉政策によって支えられなければならず、このような社会福祉生活に産業の貢献が必要とされています。
グローバル化された世界での持続可能な産業システムの構築
グローバルバリューチェーンへの参加は、多国籍企業の利益を増やす目的だけではなく、雇用の質を高めることを目標としなければなりません。
政府はグローバルバリューチェーンの参加から生じる利益が、労働者と社会によって均等に分配され、研究開発を技能に再投資されるような産業政策を策定する必要があります。
輸出加工地域の飛び地的なアプローチとは逆に、現地産業の持続可能な開発に関わる総合的な産業開発戦略が必要となります。
政府の政策は、より多くの付加価値を集積させるハイレベルなバリューチェーンへの参加を推奨することが重要となります。
このようにして現地企業の地位を強化し、賃金の引き上げや労働条件の向上、技能水準の向上が推進されます。
現在の制度からの公正な移行
現在の制度が持続可能な産業を発展させるために機能していないことを自覚することで、労働者は労働運動によってより良い公正な社会を作ろうとしています。
現在の状況から希望するところまで到達するためには、必ず移行期が存在します。
この移行期に、多くの新たな環境にやさしい雇用が創出されるだけでは十分ではありません。
持続可能な将来に向かう過程で、現在の産業に携わる労働者のニーズを考慮する必要があります。
これを「公正な移行」といい、持続可能な産業政策と社会プログラムの包括案となります。
そして、この社会プログラムによって労働者が変化による代償を支払うことなく、逆に利益を得ることができるようにするべきなのです。
まとめ
ここまで、産業化と持続可能な産業化の違いや、各国が持続可能な産業化のために行うべき政策について解説してきました。
持続可能な産業化は、一個人の努力だけで達成することは難しく、企業ひいては国家の政策により達成することができるものということがお分かりいただけたと思います。
勤務する企業で社内の仕組みを変えていく努力を行うことが、個人が持続可能な産業化を推進するためにできることのひとつであると言えるでしょう。