二酸化炭素が海の生物の多様性を損なう?~海洋酸性化とは~

地球の約70%を占めている海。
人間の経済活動などで発生する二酸化炭素は、この海にも大きな影響を与えています。

近年ではこの二酸化炭素によって、サンゴやプランクトンなどの海の生態系に影響が及んでおり海のさまざまな生態系や多様性に大きな影響を与えています。

二酸化炭素が海の生物に影響を与える原因は、二酸化炭素が水中に溶け込み海水のpHを下げ、海水を酸性化させるというものです。

ここでは、海水酸性化が海の生き物に与える影響などについて解説していきます。

海洋酸性化とは

海水は本来、弱アルカリ性に保たれています。
しかし、この海水に空気中の二酸化炭素が溶け込むことで、海水が酸性寄りになってしまいます。

海の表面のpHは約8.1となっていますが、深海へと進んで行くにつれてpHは下がり、北西太平洋では水深1000メートル付近で最も低くなり、約7.4程度となります。
これは水深が深くなるにつれて有機物の分解により海水中の酸素が消費され、全炭酸濃度が増加することが原因であると言われています。

この海水中に二酸化炭素が多く溶け込むことによりpHが下がり、海水が酸性寄りになってしまいます。

このようにして大気中の二酸化炭素が海水に溶け込み長期にわたってpHが下がることを、海洋酸性化といいます。

海洋酸性化の現状

海洋酸性化の可能性は、1970年代の初めに指摘されました。
ただし、その時点ではまだ海水のpHを正確に測定する技術が進んでいなかったため、海水の酸性化がどの程度進んでいるのかを明らかにすることはできませんでした。

その後、1980年代から海のpHの測定手法が進んだため正確な観測データが得られるようになり、さらに1990年代末から2000年代の初めにかけて海洋酸性化が海洋生物に影響を及ぼすことが指摘され始めました、

これによって、研究者の間で海洋酸性化の問題への急速な問題意識の高まりがみられるようになりました。
現在までに海洋酸性化の進み方は、いくつかの長期的なデータによって明らかになっています。

太平洋のハワイ近海では、表面海水中の二酸化炭素濃度が長期間にわたって上昇していることが報告されており、それに伴うpHの低下が報告されています。
このような報告は西部北太平洋や大西洋、南太平洋、地中海、北太平亜寒地帯などでも行われています。

さらに海洋酸性化は海水の表面だけではなく、海の深い部分のでも進行しているという報告もされています。

数値モデルによる現在の気候の再現実験や将来予測の研究もおこなわれており、人間の活動によって増加した二酸化炭素を海洋が吸収することによって地球上の海洋表面のpHは、21世紀末には19世紀終盤と比較すると、0.16から0.44低下すると予測されています。

海洋酸性化は、大気中に排出される二酸化炭素の量に応じてゆっくりと進んでいきます。
ただし、海洋酸性化の実態はまだすべてが明らかになっているわけではないので、海洋の監視を継続し科学的な知見を集積していくことが必要となります。

海洋酸性化が海の生態系に与える影響

海洋酸性化は、海の生態系にさまざまな影響を与えます。
ここでは、サンゴの石灰化ができなくなる、海洋生態系の破壊、魚介類の成長を妨げる、水産業への影響に焦点を当てて解説していきます。

サンゴは、骨格が酸に溶けやすい成分でできていることと、酸性化の影響を受けやすい海の表面付近に生息しているため、非常に海洋酸性化の影響を受けやすい生物です。

海洋酸性化が進むことにより、サンゴは骨を作るための「石灰化」ができずに育つことができなくなる、現在生息しているサンゴの骨が溶け出す、サンゴの石灰質の骨格が積み重なってできたサンゴ礁が破壊されるといった影響を受けます。

実際に酸性に近い水槽の中でサンゴの石灰化(骨格形成)の速度を4年間観察した実験によると、正常な弱アルカリ性の海洋環境にある場合と比較すると約40%も石灰化の速度が遅くなるという結果が出ました。

このようにサンゴの石灰化の速度が遅くなることにより、サンゴの骨が支えているポリブと呼ばれる生殖や吸収を行う部分に影響が出てしまい、最悪の場合サンゴが死んでしまう恐れが出てきます。

海洋酸性化が影響を与えるのはサンゴだけではなく、海洋生態系にも大きな影響を与えます。
海洋酸性化により、骨格や甲殻類の殻が形成できなかったり、溶け出してしまったりするためです。

サンゴ以外にも、ウニ、エビやカニなどの甲殻類、ホタテ・牡蠣などの貝類、植物性プランクトン、動物性プランクトンなどが海洋酸性化によって大きな影響を受けます。

これらの生物に共通するのは、「炭酸カルシウム」という成分でできた骨や殻が体の表面などの海水の影響を受けやすい部分にあるということです。

炭酸カルシウムは酸性に弱いという性質があるため、これらの生物の生育に影響を及ぼし、生態系が乱れる影響が出てきます。
特に植物性プランクトンが育たないことで、それを餌とする魚介類の成長にも影響を与えてしまいます。

植物性プランクトンは生態系の一番下におり、その生息数が減少すると生態系の上部に位置する生物の食糧が減少し、最終的には最上位に位置する大型の魚の生息数も減少してしまいます。

生物は生涯生きていくために、体重の約10倍のエサを必要とすると言われています。例えば、100㎏のマグロが生涯生きていくためには、1トンのイワシなどの食糧を必要とします。

このようにして海洋生物の生息数が減少することで、水産業にも大きな影響が出てきます。
海洋酸性化により影響が出るのは、甲殻類、貝類、大型の魚などに関わる水産業です。
海洋酸性化が進むと、これらの漁獲量が大きく減少することが考えられます。

特に日本では、漁業に占める貝や甲殻類の割合が高い地域も少なくないため、大きな経済的損失を被ることが予想されます。

その損失は、5千億円から2兆円にまで及ぶと言われています。

これは日本だけの問題ではなく、世界中でも同様の問題が起こるでしょう。
海洋酸性化により貝や甲殻類の漁獲高が減少することで価格の上昇や、食べる機会が減少するといった事態も予想されます。

海洋酸性化に対する世界の取り組み

海洋酸性化を防ぐためには、何よりも大気中の二酸化炭素の減少させることが重要になります。

そのために海洋酸性化問題解決以外にも、世界の平均気温を抑える温室効果ガスの排出を今世紀後半には実質ゼロにするといった目標を掲げた「パリ協定」が結ばれました。

パリ協定の目標を達成するためには、エネルギー、産業、運輸、家庭・事業、農林水産業などさまざまな部門で細かな目安が定められており、その方法は国ごとによって異なりますが、パリ協定の目標を達成することで大気中の二酸化炭素を減少させるとともに、海洋酸性化の進行も止めることができるでしょう。

まとめ

SDGsの目標14海の豊かさを守ろうを実現するためには、二酸化炭素の排出量の削減が重要であることがお分かりいただけたと思います。

二酸化炭素の排出削減は地球温暖化をストップさせ気候変動に具体的な対策を行うためだけではなく、海の豊かさを守るためにも欠かすことができない今後の課題です。

海と陸の双方の環境を守るために、自分で行える日々の小さな努力を積み重ねていきましょう。

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