愛媛大学付属高校プラガールズ~自然に優しい使い続けられるプラスチック~

プラスチックの使用量削減を目的として、今まで小売店で無料配布されていたプラスチックの袋が有料化されて数年が経ちます。

このプラスチックの袋の有料化に、不便を感じている方も少なくないのではないのでしょうか。

プラスチックごみによる海洋汚染が問題となっている現在では仕方のないことと思われる方も多いでしょう。

しかし、細菌により分解される環境にやさしいプラスチックが開発されれば、今後プラスチック袋をまた無料で利用できることができるようになるかもしれません。

そのような環境にやさしいプラスチックの開発に力を注いでいるのは、なんと女子高生です。

この環境にやさしいプラスチックの開発を行っているのは、愛媛大学付属高校の理科部の生徒、通称「プラガールズ」です。

ここでは、プラガールズの活動について解説していきます。

プラガールズ誕生の背景

プラガールズは、愛媛大学付属高校の理学部の中でプラスチックについての研究を行うグループです。

愛媛大学付属高校は科学分野の研究に力を注いでおり、理系学部の大学教授から指導を受けるテーマを選択する生徒も多い高校です。

理科部が発足したのは2009年(平成21年)年で、5つの班に分かれて活動を行っています。

プラガールズは2020年(令和2年)から活動を開始した環境に影響を与えるプラスチックについての研究成果でコンクール等において数々の賞を受賞し、プラスチックごみが環境に与える影響についての啓発活動にも熱心に取り組んでいます。

プラスチックごみが環境に与える影響

プラスチックは、人間の生活に欠かすことができない存在で、身近なところではプラスチック袋やペットボトル、容器に使用されています。

しかし、ほとんどのプラスチックは手軽に使えるため、大量に生産されそのほとんどがごみとして廃棄されます。

このようにして廃棄されたプラスチックごみのうち適切に処理されたものは問題ないのですが、ポイ捨てや不適切に処分されたプラスチックごみは風に乗り川に流されやがて海に流れ込み、海洋汚染の原因物質となってしまいます。

海洋汚染の原因となるプラスチックごみは世界中で問題になっており、その量は年間800万トンにも及ぶと言われています。

プラスチックごみは海の環境を壊し、その生態系にも悪影響を与えるため、魚介類を食べる人間の食卓にも大きな被害を及ぼすことになってしまいます。

プラガールズは、このようなプラスチックごみ問題の啓蒙活動にも携わっています。

プラガールが開発中のプラスチックとは

プラガールズが開発に取り組んでいるプラスチックとは、生分解性プラスチックを海洋性細菌に作らせるというものです。

プラスチックには石油から作られる化石資源由来のものと、植物や微生物から作られる「バイオマスプラスチック」に分けられます。

その中でも自然の力で分解されるものは、「生分解性プラスチック」と呼ばれており、プラガールズは環境にやさしい生分解性のプラスチックの原料となる「PHB」という物質に着目しました。

研究には、世界各地の「天日塩」が使用されます。

天日塩は加熱されていないため、その中に海洋性の細菌が眠っています。

この細菌を培養することで、「PHB」を取り出せることが分かりました。

しかし、海洋性細菌の培養液100mlから抽出できるPHBは、わずか0.1gにすぎません。

その培養液も高価であるため、生産コストの高さが大きな課題となります。

プラガールズの一人は、「経済的でないと製品化は難しいと思う」と話します。

海洋性細菌の培養にかかるコストをカットするために、日々研究室に通い根気強く実験を重ねていました。

そしてプラガールズは、10倍に希釈した培養液に糖を加えると通常よりも多くの細菌を生み出せることを発見します。

この方法で培養液の使用量も減らすことができ、生産コストも大幅に削減できる可能性を見出しました。

ここでまたひとつ、製品化の実現に向けて大きな一歩を踏み出したのです。

プラスチックごみの愛媛ならではの事情

プラガールズが海洋プラスチックの削減に取り組んでいる理由には、愛媛ならではの事情がありました。

それは養殖に使用されるプラスチックのパイプなどが県内だけではなく、瀬戸内海でつながる隣県から流れつくことも多いというものです。

また、農業用の肥料を覆うためのプラスチックカプセルが川から海に流れ出すなど、その問題は多岐にわたります。

バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの違い

バイオマスプラスチックとは、植物などの再生可能な有機資源を原料として作られるプラスチック素材です。

一方、生分解性プラスチックは自然界に存在する微生物の働きにより分解され、最終的には二酸化炭素と水になるプラスチックのことを言います。

バイオマスプラスチックは植物を原料としているため、石油などの化石燃料を使用していません。

そのためバイオマスプラスチックは、「カーボンニュートラル」であることを最大の特徴としています。

ただし、必ずしも自然界で分解されるものではありません。

プラガールズが研究している生分解性プラスチックの特徴は、自然界で分解されることを前提に作られています。

そのため、プラスチック袋やストローなど使い捨てにされるプラスチック製品に向いている原料です。

また焼却しても熱量が低いため、焼却炉の負担が少ないという特徴があります。

このような理由から、プラガールズが研究に取り組んでいる生分解性プラスチックは、廃棄する際の処理の合理化や、海に流れ込んでしまった海洋プラスチックごみの削減などの効果が期待されています。

生分解性プラスチックに向いている用途

プラガールズが研究を行っている生分解性プラスチックには、コストの問題以外にも、時間の経過とともに分解されることを前提として作られるため、長期間使用する製品には向いていないという課題があります。

また、一般的なプラスチックごみをリサイクルする際に生分解性プラスチックが混入すると、リサイクル品の品質が落ちてしまうという問題もあります。

そのため、乳幼児の玩具や養殖用のプラスチックのパイプなどの長期的に使用する製品には向いていませんが、一度きりしか使用しないストローやコンビニエンスストアで配布されるカラトリーなどには向いている原料であると言えます。

生分解性プラスチックはその性質ゆえに、万能なプラスチックではないことも念頭に置いておく必要があります。

まとめ

ここまで、愛媛大学付属高校の理科部の生徒が作る「プラガールズ」の活動について解説してきました。

SDGsの大きな目標は、「次の世代に負の遺産を残さない」というものですが、まさに「次の世代」ともいえる高校生がすでに海洋プラスチックごみの危険性に気づき、SDGsの目標14の海の豊かさを守ろうの目標達成のための活動を行っています。

注目すべきは、この生分解性プラスチックに関する研究と海洋プラスチックごみに関する啓蒙活動を、生徒自身が自主的に行っていることです。

このような研究を高校生活の中で行ってきた生徒が社会に出た時に、どのような将来を作っていくのかが楽しみです。

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