バイオマス発電で醤油が値上がり?そのカラクリとは

SDGsの7つ目の目標である「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を実現するために、さまざまな方法で二酸化炭素などの地球温暖化ガスを排出しない発電方法が広がりを見せています。

そのクリーンなエネルギーを生み出すための発電方法に、バイオマス発電があります。

バイオマス発電は、クリーンなエネルギーを生み出すことができる一方で、食糧不足を引き起こしてしまう可能性もはらんでいます。

ここでは、バイオマス発電が食料不足を引き起こす可能性について解説していきます。

バイオマス発電とは

バイオマスとは、「動物や植物から生まれた石油などの化石燃料を除く再生可能な有機性の資源」のことを言います。

主にバイオマスと呼ばれるものの中には、海藻、生ごみ、木材、糞尿、紙類、プランクトン、サトウキビ・トウモロコシ・油脂などの資源作物があります。

バイオマス発電の仕組みは、大きく3つに分けられます。

その3つとは、バイオマス燃料を燃焼させて蒸気タービンを回転させ発電を行う直接燃焼方式、可燃性ごみや木くず、間伐材などを加熱して発生させたガスによりタービンを回転させる熱分解ガス化方式、生ごみや糞尿、下水汚泥などを発酵させたときに発生するメタンガスなどのガスを利用してガスタービンを回す生化学的ガス化方式です。

バイオマス燃料を燃焼させることで二酸化炭素が排出され、地球温暖化が促進されるのではないかとお考えの方もいらっしゃると思いますが、バイオマス発電は原材料が成長していく過程で光合成により二酸化炭素を吸収するため、燃焼によって排出される二酸化炭素の量が相殺されるという考え間ら、再生可能エネルギーとして扱われています。

バイオマス燃料の需要は拡大中

太陽光発電を行う際にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が導入されていますが、この制度はバイオマス発電にも導入されています。

FIT制度については2030年度に制度の大幅な見直しが予定されているため、大規模なバイオマス発電所の新たな建設は鈍化していくと考えられますが、メタン発酵を利用した生化学的ガス化方式のバイオマス発電所は、有機性廃棄物や食物廃棄物を有効活用するために今後増加していくものと考えられます。

また、バイオマス燃料とはバイオマスから作られた燃料のことで、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェット燃料、バイオガスの4つがあり、この中でもバイオディーゼルとバイオジェット燃料、の製造に大豆が利用されます。

航空業界においても、二酸化炭素排出量の削減を目的として大豆を使用するバイオジェット燃料のニーズが高まってきています。

事実、2020年以降日本国内でも輸入バイオマス燃料を利用した商用フライトの実績がでてきています。

このようなことから、今後バイオマス燃料の需要もさらに拡大していくものと思われます。

大豆の需要拡大により価格も高騰

バイオマス燃料でガソリンの代替品として注目されているバイオエタノールを作る場合には大豆が用いられることがあり、特にアメリカではバイオエタノールの作成に使用される原料の50%を大豆が占めています。

バイオエタノール作成原料としての大豆は、大豆は世界的にもパーム油と並んで29%の割合を占めており、このように大豆の需要が拡大していく中で、大豆の価格も高騰してきているという現状があります。

そのため醤油をはじめとした納豆やみそなど、日本人になじみ深い食品の値上がりが懸念される事態となっています。

大豆は投資の対象になっている

このようなバイオマス燃料の原料としての大豆の需要の高まりと価格の上昇に目をつけたのが、世界の投資家たちです。

現に大豆市場には投資や投機マネーの流入の動きが見え、大豆価格の高騰に拍車をかけています。

近年では投資に関する人々のハードルが下がり、スマホさえあればすぐに投資を始めることができます。

このような小口の投資家から、大規模な企業などが大豆に投資しているため、大豆の価格が上昇し続けているのです。

大豆値下がりの可能性は?

大豆はもともと食品ですがバイオマス燃料としても価値も出てきたため需要が大幅に拡大していますが、その作付面積は需要の拡大に対応できるほど増えていません。

大豆の世界最大の輸入国である中国が大豆の買い付け量を増やしたタイミングで、大豆の輸出国であるブラジルがそのニーズに応えるものと思われていましたが、実際は異なる結果となりました。

ブラジルが、ガソリンの代替品となるバイオディーゼルの内需拡大を優先させたのです。

そのため大豆自体の価格だけではなく、大豆油などの加工品や大豆かすなどの飼料原料の価格までもが上昇し、それに伴って大豆の加工食品や大豆を飼料とする畜産物の価格が上昇する懸念があります。

この傾向は現在のところとどまることが無いため、大豆価格の高騰や高止まりが続くと考えられることから、当面の間は大豆価格の値下がりは期待できないというのが現状です。

将来的には食用の大豆が不足する可能性も

大豆の需要はバイオマス燃料のほかに、中国等の開発途上国の人口増加や所得の向上などの理由によって、さらに高まってきています。

畜産物や油脂類の消費が拡大していくことが予想されますが、その原料や飼料となるのは大豆や大豆かすです。

このような背景から食用としての大豆の需要も広がりを見せている中、SDGsの7つ目の目標のクリーエネルギーであるバイオエタノールの生産のために、トウモロコシの最大輸出国であるアメリカはトウモロコシの生産を優先させ、大豆の作付けを減少させています。

このように大豆の需要は急激に高まっても、作付けが追い付かないという状況が続いています。

このような世界の穀物需給をめぐる世界の状況は、一時的なものではないと考えられています。

大豆の増産が行われない理由には、地球温暖化の加速や水資源の不足なども影響していると考えられるため、世界の食糧事情は今後中長期的にひっ迫する可能性が高いと考えられます。

このような理由から、EUを中心とした国々から大豆を含む穀物をバイオ燃料にすべきではないという声が上がり、特にアメリカに向けて「食料を燃やすな」という批判が高まってきています。

まとめ

SDGsの7つ目の目標である「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を達成するためには、バイオマス燃料の活用もまた重要な手段のひとつです。

しかし、食糧である大豆をはじめとした穀物をバイオマス燃料として利用すると、食料の高騰や不足を招いてしまう危険があることがお分かりいただけたと思います。

二酸化炭素をはじめとした地球温暖化ガスの削減だけに目を向けていると、人の食料や家畜向けの飼料が不足してしまう可能性があります。

バイオマスには大豆などの穀物だけではなく、食品廃棄物や家畜排せつ物などの廃棄系バイオマス、麦わらや間伐材、稲わらなどの未利用バイオマスなどもあり、これらを上手に組み合わせてバイオマス発電やバイオマス燃料の生産に役立てることで、大豆をはじめとした穀物の価格の高騰や供給不足による食糧危機を防ぐことができます。

特に大豆などの穀物を利用して作られるバイオエタノールは、間伐材などの木質バイオマスや麦わらでも作ることが可能なので、これらのセルロース系原料を活用したバイオエタノールの作成技術の向上による、穀物に依存しないバイオマスエネルギーの活用が期待されています。

 

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