(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-22/RZKIM6T0G1KW01より)
EVとは、エレクトリック・ビーグルの略で、電気自動車の事です。
EVは、その名の通り電気エネルギーを動力源として走行します。
このEVは2020年度に世界各国での販売台数が1,000万台を突破しましたが、中でも中国が最大の市場となっています。
二酸化炭素を排出しない自動車として環境問題の改善が期待されるEVですが、現在EVはさまざまな問題の原因となっています。
ここではEVが持つ特徴がもたらした、「EVの墓場」という問題について解説していきます。
「EVの墓場」とは
EVの墓場とは、中国国内で増加している巨大なEVの廃棄場です。
そこに打ち捨てられたEVは200台から300台、ときには2,000台に及ぶケースもあり、それらの車体はさびて、見るも無残な姿になっているものも少なくありません。
このように多くのEVが敷き詰められるように廃棄されている光景が、まるで墓場のように見えることから、EVの墓場と呼ばれるようになりました。
「EVの墓場」ができる理由
EVの墓場ができる理由のひとつに、EVを普及させるための補助金があります。
中国ではEVの生産や販売・輸出を奨励しているため、一定の条件を満たすとさまざまな優遇措置や奨励金・補助金を受けられる制度があります。
その優遇措置を目当てに、中国の自動車メーカーは過剰な台数のEVを生産するようになり、そして架空登録を行って販売台数を増加させるという行為を行っているのです。
このような行為の結果として、過剰に製造されたEVが廃棄され、EVの墓場を作り出す原因となっているのです。
また、中国国内でのEV市場の過度な競争も、EVの墓場が生まれる原因のひとつであると考えられています。
中国政府が推進するEVの施策や、シェアリングサービスなどに対して多くの企業が市場に参入してきた結果、競争についていけなかった企業が倒産に追い込まれるケースが相次ぎました。
倒産した企業が製造し在庫として抱えていたEVも、適切に処分されることなくそのまま放置され、それがEVの墓場となってしまったのです。
「EVの墓場」が抱える問題点
EVの墓場に大量に放置されているEVは、環境破壊につながる恐れがあります。
ここで紹介するEVを放置することで起こる問題は、中国だけのものではなく全世界に共通するものです。
ここでは、EVを放置すると起こる問題について解説していきます。
リチウムイオン電池の廃棄問題
EVにはリチウムイオン電池が使用されていて、これらが適切に処分されない場合、有害物質による環境汚染を引き起こしてしまいます。
リチウムイオン電池はEVの核心ともいえる技術ですが、この技術には課題もあります。
それはリチウムイオン電池の原材料に、コバルト・ニッケル・マンガンなど土壌を汚染する材料が多く使用されているため、適切な方法で処分しないとこれらが流出し、土壌や水を汚染してしまうということです。
廃棄されたEVのバッテリーが適切に処分されず野ざらしのまま放置されてしまうと、人体や地球環境に大きな悪影響を及ぼしてしまいます。
リチウムイオン電池はただ廃棄するのではなく、リユースやリサイクルによりこれらを資源として有効活用していくことが求められます。
リチウムイオン電池の発火の危険性
リチウムイオン電池が劣化してしまうと、衝撃が加わることで発熱し激しく発火してしまう可能性があります。
このような事態がEVの墓場で起こってしまうと、瞬く間に他の車両へ燃え広がり、大火事になってしまいます。
また、リチウムイオン電池が発火した際には、水素・二酸化炭素・メタン・エタンなどの炭化水素系の物質に加えて、微量ではありますがフッ化水素や一酸化炭素も放出されます。
この中でも特にフッ化水素と一酸化炭素は毒性が強く、人間が吸い込むことで死亡する恐れもあります。
さらにフッ化水素が空気中の水分と反応してフッ化水素酸(フッ酸)に変化してしまうと、さらに甚大な被害を引き起こしてしまいます。
「EVの墓場」はアメリカやドイツでも
アメリカやドイツでも、EVの墓場は問題になっています。
その理由は、自動車メーカーの直販システムにあります。
直販を行う場合には、ディーラーでの一定期間の在庫という余裕がなくなってしまうので、生産工場で在庫を抱える必要が出てきます。
注文残が出るほど売れ行きが好調であれば、生産後すぐにEVを納品できるため、在庫を最小限に抑えることが可能です。
しかし、需要の急減などの理由によって納車までの期間が長引いてしまうと、生産工場には在庫があふれる状態になり、生産工場の周辺にはまるでEV墓場のような現象が起こる事態になってもおかしくありません。
中国とは異なる理由からではありますが、中国以外の国でもEVの墓場が生まれる可能性はあるのです。
環境を守るために開発されたEVによって環境が壊されていく
EV普及は、二酸化炭素を排出しないクリーンな自動車を普及させ、地球温暖化防止に役立てるというのがそもそもの狙いでした。
しかし、国の政策によって行われたEVの過剰生産や、EVメーカーの直販といった販売システムによって、EVの墓場はその数を増やしてきています。
EVに使用されているリチウムイオン電池を放置せず正しい方法で処分しないと、環境を守るどころか甚大な被害を与えてしまうのです。
EVの墓場による環境破壊を最小限に止めるためには、リチウムイオン電池を正しい方法で処分することを政策として掲げる必要があるでしょう。
まずはこの点から改革を行わない限り、EVの墓場による環境汚染が止むことはありません。
早急に対策を講じない場合には、環境を守るために開発されたEVで環境が汚染されていく結果になってしまいます。
EVを使う人間に一番の問題がある
EV事態にも、さまざまな問題点があります。
EVは搭載されているリチウムイオン電池に充電した電力を利用して走行するため、EV自体は二酸化炭素を排出することはありません。
しかし、その電気を発電する方法が火力発電など、現在問題になっている二酸化炭素を大量に排出する方法であれば、EVも間接的にではありますが二酸化炭素を排出していることになります。
また、走行距離や充電にかかる時間、バッテリーの寿命など製造技術面での課題もまだまだ多くあります。
しかし、クリーンエネルギーの普及と製造技術の向上が進むことで、EV自体が抱える課題は徐々に克服されていくものであると考えられます。
一番の問題は、せっかく作り上げたEVを大切にしない人間の側にあるのではないでしょうか。
安易にEVに乗り換え、不要になれば正しい手順を踏まずに手放し、その結果が環境汚染につながるという構図が、地球環境に悪影響を与えているのです。
EVの生産に携わる人とそれを使う人がEVを大切に扱い、EVを処分するその時まで責任を持って全うすることで、EVの墓場という問題は解消されるでしょう。
このときはじめてSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」を達成することができるのです。