燃焼させても排出するのは水だけで二酸化炭素を排出しない水素には、二酸化炭素を排出しないということ以外にも、さまざまなメリットがあります。
水素は燃料電池も使われており、水素自動車などにも使用されています。
ここでは、水素を新しいエネルギー源として利用するメリットや、その作成方法について解説していきます。
今水素エネルギーが注目されている理由
世界中でカーボンニュートラルに向けてさまざまな取り組みが行われている現代において、水素は燃焼する際に二酸化炭素を排出しないことから、新たなエネルギー資源として注目されています。
ここでは、水素が新たなエネルギーとして注目されている理由について解説していきます。
貯蔵や運搬が可能なためエネルギーを安定して供給することができる
水素を貯蔵する方法には、高圧で圧縮する、低温で液化する、金属などに吸着または吸蔵させる、他の物質に変換する、の4つの方法はあります。
この中で現在最も一般的に行われているのは、気体のまま高圧で圧縮して貯蔵する方法です。
しかし、水素は鋼鉄などの金属の中に入り込み脆くする性質があるため、高圧の水素を貯蔵するためには、鋼鉄できたタンクを使用することはできません。
そのため水素を気体の状態で貯蔵するためには、特殊ステンレス鋼やアルミニウム合金、高分子複合材料を使用したタンクを利用します。
また水素を運搬する方法には、高圧で圧縮する、低温で液化する、パイプラインを利用する、他の物質に変換して運ぶ4つの方法があり、この中で最も多く使われているのは貯蔵の場合と同じく水素を高圧で圧縮して運ぶ方法です。
このように水素を圧縮して運ぶ方法が一般的になった理由には、充填圧力が20MPaの状態にあるとき体積は200分の1となり輸送効率が高まること、気体のまま貯蔵・運搬が可能なので燃料としてすぐに利用できるということが挙げられます。
水があればどこでも生産することができる
水素を作る方法には、水を電気分解するというものがあります。
水が原料となるため、水資源が豊かな日本などの国ではどのような場所でも水素を生産することができます。
水素を作るための水は真水ではなく、海水でも作ることができるため資源が枯渇することはありません。
しかし海水を利用して水素を作る際には、有毒な塩素ガスも発生するため取り扱いには注意が必要であり、結果的には製造コストも高くなっていました。
海水から水素を作る際には、海水にアルカリ物を添加する方法や触媒の上に塩化物イオンを排除する層を組み合わせる方法が用いられてきましたが、山口大学大学院の研究により塩素ガスを発生させることなく水素を作ることができる方法が発見されました。
この方法が発見されたことにより、低コストで海水から水素を作る方法が実用化されれば、水素ガスの資源は無尽蔵になるということができるでしょう。
発電時に二酸化炭素を排出しない
水素で発電を行う方法には、水素を燃焼させそのエネルギーでタービンを回転させて電気を作る方法と、水素を空気中の二酸化炭素を化学反応させた際に発生する電気を利用する方法の2つがあり、後者は燃料電池に利用されます。
このふたつの方法で電力を発生させる際には、二酸化炭素を発生させないという特徴があります。
水以外の資源からもさまざまな方法で生成できる
水素の生産方法には、石炭や天然ガスを燃焼させてガス化し、そのガスから水素を取り出す方法があり、この方法で作られた水素をグレー水素といいます。
この方法で水素を作り出すメリットには、電気分解により水素を作り出す方法と比較して低コストで水素を作ることができるということが挙げられます。
ただしこの方法で水素を作り出す際には、二酸化炭素が排出されてしまうため水素であってもクリーンなエネルギーであるとは言えません。
そこで排出される二酸化炭素を回収し、貯蔵したり他の用途に利用したりすることで、結果的に二酸化炭素の排出量を抑える手法も存在します。
このように、水素は石炭や天然ガスからも作り出すことができますが、この方法では排出される二酸化炭素の処理方法について課題が残っていると言えます。
燃料電池に水素は欠かせない存在
燃料電池は水素自動車や家庭用燃料電池として利用されるもので、この燃料電池により電力を得るために水素はなくてはならないエネルギー源です。
燃料電池は「電池」という名前が付いていますが、蓄電池のように充電した電気を貯めておくという仕組みのものではなく、水素と酸素を反応させて電気を発生させるいわば「小さな水素発電所」ともいえる存在のものです。
そのため燃料電池を利用して車を走らせたり、家庭で電気を使ったりするためには、水素はなくてはならない存在なのです。
燃料電池の発電のメカニズム
燃料電池は、水素を燃料として供給することで、水素と酸素が電気化学反応を起こすことにより電気エネルギーを発生させるという仕組みで発電を行います。
このような電気化学反応に伴ってできるエネルギーを直接電気エネルギーに変換することができるため、発電時のエネルギー効率は非常に高く、排出されるのは水素と酸素の化学反応によりできた水だけであり、それ以外の廃棄物となる物質は生成されないため、非常にクリーンな発電方法で電気エネルギーを得ることができます。
水素自動車(燃料電池自動車)はFCV(Fuel Cell Vehicle)とも呼ばれ、この水素自動車を動かすためには、ガソリン車はガソリンスタンドでガソリンを補給するように、水素ステーションで燃料となる水素を補給する必要があります。
一方家庭用の燃料電池の場合には、都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素で化学反応を起こさせ、電気を作り出します。
このときに熱が発生しますが、この熱でお湯を沸かして家庭のバスルームやキッチンで利用することができるため、省エネに大きく貢献することができます。
水素を利用するデメリットとは
水素を利用して電気を利用する際に、現状で最も問題となっているのがコストの問題です。水素を作り出す環境が整っていない現在の状況では、従来の発電方法で作られた電気のほうがはるかに安価で、水素による発電にかかる1キロワットあたりのコストは、液化天然ガス(LNG)の7倍とも言われています。
また水素自動車を普及させるためには、水素ステーションの設置も必要となりこれが実現しない限りは水素自動車の全国的な普及も難しいといえるでしょう。
さらに水素エネルギーは石油や天然ガスなどの化石燃料と比較して、一般的な理解度や認知度が低いといった問題もあります。
今後水素エネルギーの利用を一般に普及させるためには、水素エネルギーを使いやすい環境を整える必要があります。
まとめ
ここまで水素エネルギーの作り方やその利用法、水素エネルギーが二酸化炭素を発生させないクリーンなエネルギーであることなどについて解説してきました。
水素を化石燃料から作る際には二酸化炭素が発生しますが、このような場合には二酸化炭素を回収して貯蔵したり他の用途に使用したりすることで、二酸化炭素が大気中に排出されることを抑えることができます。
逆に水を電気分解して水素を作る場合であっても、電気分解に使用する電力が再生可能エネルギー由来の物でなければ、水素は完全にクリーンなエネルギーであるということはできません。
このように水素を使う際に、その水素がどのような方法で作られたのかを知ることで、水素を究極のクリーンエネルギーとして利用することができるでしょう。