ジェンダーを「形状記憶」させる。日本社会の脆弱性と生きづらさ

「SDGs目標5:ジェンダー平等を実現しよう」
「SDGs目標16:平和と公正をすべての人に」

上記の目標達成に向けて、欧米社会を中心に「誰もが自分らしく」生きることができる「ジェンダーニュートラル」「ジェンダーインクルーシブ」な社会を目指す舵が切られています。

ジェンダーニュートラルとは、社会的制度や政策が、その人の性別やセクシュアリティで判断されるべきでないという考え方のこと。ジェンダーインクルーシブも”性差別のない”といった意味合いを持ち、どちらも今後の世界的新基準となる重要な概念です。

これらの考え方は、多様性の高まりや性的マイノリティへの配慮を忘れない、包括的な社会の実現を目指すうえで欠かせない要素です。こうした潮流の変化を受容して、性差による不平等解消にむけた社会基盤やシステムの見直しが各方面で急速に進められています。

身近なところでは、ソーシャルメディアの巨人・Facebookが最近発表した数十に及ぶ性別がわかりやすい事例でしょう。abc Newsによると、Facebookに投稿された性別を特定するためのオプションは、少なくても58種類を確認したとの報告。今後もこのカテゴリー数は増加すると予想されています。

世界の柔軟な対応とは一転、日本国内に目を向けるとどうでしょうか。先進的なセクシャリティーへの理解や取り組みはおろか、男女平等の実現さえも世界に立ち遅れる現状です。

本記事では、ジェンダーに起因する固定的性役割観が強い日本の現状、SGDs達成に向けてのヒントを模索します。

ジェンダーギャップ大国・JAPAN

2021年に発表されたグローバルジェンダーギャップ指数(男女格差指数)によると、日本は120位/156位と最下位レベルのランク。前年度より121位/153位とわずかな改善が見られたものの、経済分野(117/156位)、政治分野(147/156位)が足かせとなり劇的な改善には至っていません。

そもそも、なぜジェンダー平等が重要なのでしょうか。

日本の総人口1億2557万人の約半分(6448万人)を占める女性や女児のエンパワーメントは、文化的・社会的な生活力の向上や経済成長の促進を意味します。

基本的人権のひとつである男女平等が実現されると、少子化に歯止めがかかる、人的資源の質が向上し、生産性上昇に繋がるといった国力強化に繋がるため注力する必要があるのです。

国際社会と足並みを合わせるべく、1985年の男女雇用機会均等法の制定を皮切りに、2015年の安倍政権によって働く女性を後押しするための法律「女性活躍推進法」が施行されました。

ところが、女性活躍推進法の制定から約6年過ぎた現在でも「女性管理職の低い比率や賃金格差」「進まぬ女性の経済参加率」「共働きでも変わらない家事負担」といったジェンダーギャップの根本的な解決には至らない現状です。

一向に解決に向かわない主な原因は、日本人の潜在化にある「性別役割分業」という価値観が関係しているようです。

性別分担の意識を育む社会システム

日本の歴史を紐解くと、性別役割分業の意識が強い「男性優位型の社会システム」であることは明瞭です。

そもそも性別役割分業とは、「男性は仕事、女性は家庭」あるいは「男性らしさ」「女性らしさ」など男女で違った行動様式や役目を全うすべきという概念のこと。つまり、「生物学的な性役割」=「社会的文化的な性役割」を同一視する考えを意味します。

「sex(=遺伝的、生物学的に生まれ持った特質)」と「gender(=社会的・文化的に構築された性別)」を重ね合わせる日本人特有の価値観こそが、男女間に様々な不平等をもたらす根本的な原因です。

こと高度経済成長期以降の日本では、企業戦士なる言葉が生まれたほど、男性は会社のために粉骨砕身で働くことが美学でした。その一方、結婚と同時に家庭に入り、育児や家事に専念する専業主婦の在り方が女性の理想像に。こうした明確な役割分担のおかげで、日本は飛躍的な経済成長を成し遂げ、経済大国の基盤につながったのです。

しかし事態は一変。1980年以降、女性の経済的自立や社会復帰が叫ばれる中、こうした色濃い性役割分業は閉塞感を生みだし、夫が妻を経済面や精神面で支配する構造からの脱却を目指す動きが目立つようになりました。

こうした時代の潮流とは裏腹に「見えない壁」が歯止めとなり、家事負担や政治参加など男女間格差はなかなか解消されず現在に至っています。

女性の社会進出をはばむ「見えない壁」

平成30年度に実施された男女共同参画局の報告によると、世界7カ国の先進国で6歳未満の子供を持つ夫婦を対象とした「1日あたりの家事・育児の参加時間」を調査。

女性の社会進出が進むスウェーデンでは「3時間21分」、米国では「3時間10分」、最も低い数値のフランスでさえ「2時間30分」という結果に。対する日本人男性の家事や育児参加は、女性の「約6分の1」、時間換算にして「約1時間23分」という他国の状況から乖離した数値でした。

こうした日本の特殊な状況は「家事=女性の役割」という性別役割分業観にもとづくものです。「家事=無償労働(アンペイドワーク)」という認識の薄さが、男性の家事・育児参加を単なるお手伝いの域に留めています

日本人に形状記憶された「見えない壁」のとてつもない影響力は、女性に家事と育児の2重負担を強いるだけでなく、女性のキャリア形成にも及んでいます。

内閣府によると、平成30年度に第一子出産を機に退職した女性の割合は46.9%と依然高い数値でした。つまり、ライフイベントをきっかけに、キャリアを断念せざるを得ない女性が多数存在することを意味します。

仕事と育児の両立支援策には、保育園不足や待機児童問題の解消だけでなく、短時間勤務や勤務体系の多様化、女性のキャリア形成支援が必要です。もちろん、女性自身の「キャリアを継続させたい」という強いマインドセットも前提条件として不可欠でしょう。

総じて、根本的な働き方改革と、「家事は女性の役割」という固定観念からの脱却は喫緊の課題です。

真のジェンダー平等の実現に向けて

日本の男女格差は、ジェンダーギャップを植え付ける独自の家庭教育や学校教育が大きく関係しています。七五三に代表される伝統的なお祝い行事に始まり、学校生活や教育カリキュラムにおいても「男」と「女」相対化させる機会があふれています

例えば、色とりどりのランドセルが登場し始めたのが1990年頃。昭和時代には「男子は黒」「女子は赤」と、性別で色分けする”暗黙のルール”が社会を支配していました。子ども達の好みや個性を優先するより、周りの子と足並みをあわせるべきという同調圧力によるものです。

現在ではピンクやパープル、パステルグリーンなど、ランドセルも「ジェンダーレス化」が標準です。男女を色分けする固定観念から脱却し、豊富な色の選択肢の中から、自分が好きな色を手にする選択の自由が与えられたのは大きな一歩と言えるでしょう。

その他、男女によるクラス分けや授業内容も見直されるべき課題の一つ。ジェンダーインクルーシブ先進国のアメリカでは、男女(性的マイノリティ含む)隔てない授業スタイルが普通です。また、欧米諸国の多くでは、ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンにもとづく性教育がスタンダード。格差や不平等のない社会の実現に向けて、「包括的性教育」や「セクシャリティ教育」の機会が促進されています。

一方、日本の現状を見ると、性教育に関する授業を男女別に行うケースがごく一般的です。カリキュラム内容も、子どもたちを取り巻く性の状況が変化しているにもかかわらず、2018年に告示された新学習指導要領は従来と大差のない、子どもたちの発達要求を満たすレベルとは言えないものでした

一向にジェンダー格差が改善されない現状に、2019年に国連子どもの権利委員会から以下の勧告を受けています。

「思春期の女子および男子を対象とした性と生殖に関する教育が学校の必修カリキュラムの一部として一貫して実施されることを確保すること」

今後の日本社会には、社会・家庭・会社と三位一体で時代の変化に対応する意識改革が重要です。そして何より、自らの性(セクシャリティ)を豊かに楽しむ権利、他者と平等な関係性を育める心理的安全性がなにより求められるでしょう。

※参考資料
「ユネスコ」International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach (jpn)
「性別役割分業論」
「総務省 人口推計」

最新情報をチェックしよう!