アマモの醤油で海の環境維持に挑む高校生

「アマモ」という言葉をご存じでしょうか?

アマモとは漢字で「甘藻」と書き、北半球の温帯から亜寒帯にかけての水深2~3メートルの沿岸砂泥地に生息する海藻の一種で、日本でも各地に分布しています。

雌雄同株で多年生の顕花植物であり、胞子で増える藻類ではなく、海中に生える種子植物です。(Wikipedia参考)

このアマモは船舶の航行の邪魔になるため嫌われることもありますが、小魚や甲殻類の住みかとなり、また海をきれいにし、現在温暖化の問題となっている海水中の二酸化炭素を利用して酸素を作り出すという働きもします。

しかし、水質の悪化や沿岸地域の開発によってアマモの生息地であるアマモ場が大幅に減少しているという現状があります。

ここでは、アマモの認知度とその働きを知ってもらうためにアマモから醤油を作るという研究を行った、岡山学芸館高校医進サイエンスコースの活動を紹介していきます。

岡山学芸館高校医進サイエンスコースが挑戦したマリンチャレンジプログラムとは

マリンチャレンジプログラムとは、海洋分野での課題を発見し、人と海の未来を創り出していける仲間を育むことを目的として、2017年度より開始された日本財団とリバネスが主催するプログラムです。

海・水産分野・水環境に関わるあらゆる研究にチャレンジしている中学生・高校生の研究者を対象として、研究資金の助成や研究アドバイザーによるサポートを行っています。

このマリンチャレンジプロジェクトと合わせてDeSET、マリンテックグランプリの3つのプロジェクトを行うことで、大学や研究機関、ベンチャー、町工場、そして次世代を担う中高生が一体となり、まだまだ未知なることが多い海の解明に挑戦しています。

アマモ場の現状

海水中の二酸化炭素の量は、地球温暖化に大きな影響を及ぼします。

この問題を解決するために、光合成を行い海中の二酸化炭素を酸素に変えるアマモが果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。

岡山学芸館高校医進サイエンスコースがある岡山県備前市日生町では、アマモ場の減少とともに水産資源も減少し漁獲量に大きな影響をもたらしました。

1950年ごろには、海中に590ヘクタール程度(東京ドーム100個分相当以上)のアマモ場が広がっていたといいます。

しかし、人々が高度経済成長時代に環境問題に対して目を向けだした1985年ごろには、アマモ場は12ヘクタールにまで減少してしまっていたのです。

もともとアマモ場には、水質浄化や魚の産卵場所としての役割があったため、このアマモ場が大きく減少してしまったことにより、魚の量も急激に減少してしまいました。

この状況を改善するために、漁師たちがアマモの再生活動をスタートさせ、現在は沿岸部のアマモ場は広がりつつあります。

岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちがアマモに注目したきっかけ

岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちは、はじめはアマモの再生活動に携わっていました。

この体験は、書籍や人に聞いた情報よりずっと身近にアマモの重要性を感じるきっかけとなり、それが海洋酸性化の問題への対策を行う必要性を彼らの中に芽生えさせたのです。

彼らは実際に船に乗ってアマモを回収し、種をまくという活動を行ってしましたが、これも貴重な体験であると捉えています。

海洋酸性化の問題について考えながらも、楽しみながらアマモの再生活動に携わることができればという思いから、アマモの種子による醤油づくりを始めました。

岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちの取組み

岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒は、岡山県備前市日生町の漁師の方々と協力して、アマモの再生活動を行っています。

全国で再生活動が行われているアマモは、まだまだ認知度が高い植物であるとは言えません。

そのことに課題意識を持った岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちは、大好きな「食」とアマモを掛け合わせることで、認知度を高めていこうと考えました。

そこで創り出されたのが、「アマモ醤油」です。

アマモの種子を小麦の代用にして醤油づくりを行う過程で、代用率を試行錯誤した結果、海藻独特の風味がある新しい醤油が完成しました。

今後のアマモ醤油製造に関する課題

アマモ醤油でアマモの知名度を上げた岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちですが、今後のアマモ醤油づくりには課題もあります。

その課題は、「原料となるアマモの安定的な調達」です。

アマモは全国的に数が減少しているため、安定して調達するのが困難であると考える方もいらっしゃるでしょう。

しかし、現在は日本全国でアマモの再生活動が行われているため、その数は徐々に増えています。

増えた「アマモの森」は、山林と同様にある程度人の手を加えて環境を整えると魚などの生物多様性が向上したというデータがあります。

そのため、増えすぎたアマモののうち間引きしたものを利用すると、今後アマモを安定して入手できるようになると岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちは考えています。

環境に適切に手を入れることで、「里山」ならぬ「里海」づくりのイメージをベースにしているのでしょう。

岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちは醤油づくりを継続しながら、商品化も考えているとのことです。

アマモ醤油を通じて地球温暖化への意識を高める

アマモ醤油づくりのきっかけは、アマモの再生活動からでした。

その再生活動は、アマモ場を拡大させるだけではなく、海洋酸性化と地球温暖化対策の有効な手段となります。

現在、日本全国でアマモの再生活動が始まっていますが、アマモ場の十分な再生にはまだまだ多くの時間と人手が必要になるでしょう。

そのためには、より多くの人にアマモ場の重要性を知ってもらい、アマモ場再生のための活動に参加・協力してもらう必要があります。

アマモ醤油は、多くの人にアマモ場の重要性と現在の状況に興味を持ってもらうためのきっかけになると岡山学芸館高校医進サイエンスコースの生徒たちは考えています。

手に取った醤油が「アマモ醤油」であった場合、消費者はまず「アマモって何だろう?」と考えるでしょう。

そこからアマモ場が現在どのような状態にあるか、アマモ場が増えることによって地球環境にどのような良い影響を与えるか興味を引くことも考えられます。

アマモ醤油が単なる醤油ではなく、「地球上の環境問題を改善するためにこのような方法もありますよ」という、「手段の多様性」を示す有効な手段となることを願って止みません。

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