竹害を無くし陸の豊かさも守ろう

日本人にとって竹林は和のイメージの景色に欠かすことができない存在であり、またその芽の部分であるたけのこは春の味覚として食卓に上ります。
また竹はしなやかに強く空に向かって伸びることから、生命力の象徴する縁起の良い植物であるともされています。

このように良いイメージが多い竹ですが、現在は整備されていない竹林が「放置竹林」となってしまい、竹害といわれる被害を人々に与える存在になってしまうようになりました。

この竹害を引き起こす放置竹林を無くすことは、SDGsの15番目の目標である「陸の豊かさも守ろう」を達成するために欠かすことができません。
ここでは竹害とは何かといったことや、竹害を無くすための方法などについて解説していきます。

竹害とは

竹材やたけのこを得るために近世になってから日本に輸入された外来植物である孟宗竹は、1950年ごろまでは竹の需要が多かったためにきちんと管理されている竹林がほとんどでした。
しかし、輸入品の安価なたけのこが市場に出回るにつれて国産のたけのこの需要は減少し、竹材の代わりに安価なプラスチックなどがさまざまな製品の材料となったことで、竹材の需要もまた減少していきました。

このような理由から、各地に存在する竹林は徐々に管理されなくなり、「放置竹林」といわれる状態になってしまいました。

孟宗竹はもともと繁殖力が非常に強いため竹林の周囲に進出し、既存の植生を破壊してしまいます。
このような孟宗竹の無秩序な進出によって起こるさまざまな害のことを、竹害といいます。

竹害が起こる原因

孟宗竹の無秩序な進出によりさまざまな竹害が起こりますが、竹林が整備されずに竹害が起こるようになった理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、竹害が起こる原因について解説していきます。

竹の利用用途の減少

竹の幹の部分は乾燥させてさまざまな日用品に加工して利用されてきましたが、日用品の原材料としては安価で加工が容易なプラスチックなどにとって代わられる形で需要が低くなってしまいました。
このように竹の利用用途の減少により、竹林の整備が行き届かなくなり竹害が起こるようになりました。

竹製品の需要が急激な落ち込みを見せたのは、日本の高度経済成長期です。
日本人の生活様式が西洋化したため、竹を使用した箸や日用品などを利用することが減少したことが原因です。
さらにこの時期に加工性に優れ良質な竹材として需要が高かった真竹が一斉に枯れてしまったのも、竹製品を利用する機会の減少につながりました。

日本産のたけのこを食料とする機会の減少

たけのこについても安価な外国産のたけのこの輸入量が増加したため、比較的高価である日本産のたけのこの需要が減少してきています。
収穫されなかったたけのこは非常に速いスピードで成長し竹となるため、たけのこの時期に適切に整備されない場合には、多くの竹が生い茂る放置竹林となってしまいます。

横に広がる地下茎

竹の地下茎は横に広がり、その根を張る深さはおよそ30センチメートル程度です。
そして竹の根は非常に速いスピードで横にも広がり、その根から出たたけのこによってその面積を広範囲に広げていきます。

スギやヒノキなどは根を地中深く張るため、傾斜地に植えておけば降雨時に水で土壌が緩んでしまっても、土をしっかりと支え土砂崩れを防ぐ働きをしてくれますが、竹の場合は浅い部分にしか根を張らないため、傾斜地に竹林がある場合には降雨時に土を支えることができず竹林ごと斜面を滑り落ちることにより大規模な土砂災害をおこすリスクが高くなります。

成長スピードが速いため手入れが追い付かない

竹は非常に速いスピードで成長する植物で、たけのこの段階ではわずか2か月から3か月の間に10メートルから20メートルの高さにまで成長してしまいます。
そのため、たけのこの時点で整備を行う必要があるのですが、林業の衰退から森林全体の管理が行われなくなり竹林もまた放置されて放置竹林となってしまうという現状があります。

竹害を無くすための竹の利用法

竹害を無くすためには、竹材の需要を喚起し利用量を多くすることで竹林の価値を上げ、良質な竹材を生産するために竹林を整備する、という流れを作る必要があります。

ここでは、竹害を無くすための竹の利用方法について解説していきます。

チップにしてバイオマスエネルギーとして利用する

竹にはカリウムや塩素が多量に含まれているため発電設備に悪影響を及ぼすことから、これまでバイオマス燃料としては利用できないと考えられてきました。

しかし、2017年3月に日立がカリウムと塩素を竹から取り除く技術を開発したことを受けて、竹をバイオマスエネルギーとして利用する動きが広まってきています。
2017年10月には竹のみでバイオマス発電を行う発電所が山口県に開設され、稼働が続いています。

このように竹をチップ状にしてバイオマスエネルギーとして利用することで、竹林の利用価値を高めることができます。

筍を加工食品として販売

放置竹林となってしまった竹林でも、毎年たけのこは生えてきます。そのような放置竹林に生えてきたたけのこを利用して、メンマを製造し販売することで、おいしく放置竹林を削減することができます。
日本国内の放置竹林の削減を目的にメンマを生産している8つの企業や団体が、2021年に「純国産メンマサミット」を発足させ、販路の拡大につなげています。

紙や日用品・家具の材料にする

一時はプラスチックに押されてその需要が低下していた竹材ですが、現在は世界中で脱プラスチックが叫ばれており、プラスチックに代わって植物性の家具や日用品を目にすることが増えてきました。そのような家具や日用品の中には、もちろん竹でできたものも多くあります。

まな板やざるなどのキッチン用品やカゴバックといった日用品、そしてテーブルなどの家具にも竹材が利用されるようになってきています。
また、プラスチックでできていることが多いストローも、竹を使用したものが開発され特許を取っています。プラスチックにとって代わって竹材が利用されているものの中には、カラトリーや竹でできた歯ブラシ、竹の繊維を利用した竹ナプキンなどがあり脱プラスチックの流れの中で需要が高まると予想されています。このような竹製品のアメニティーは、帝国ホテルでも導入されています。

また、放置竹林を整備した際に出る竹を利用して「竹紙」を生産する動きも広がりを見せています。
生産した竹紙は、折り紙やノートなどに利用されます。

さらに竹でできたトイレットペーパーも生産されており、そのトイレットペーパーは原材料が竹というだけではなく、二酸化炭素をほぼ排出しない水力発電でできた電力のみを使用して、製造段階で漂白を行わないといった環境保護にこだわりぬいた製法で作成されています。

このように、日用品・家具・紙として竹を利用しその消費量を上げる取り組みが、日本各地で行われています。

まとめ

ここまで、竹害とは何かといったことや竹害の原因、竹害を無くすための取り組みなどについて解説してきました。

放置竹林が里山にある場合にはイノシシなどといった害獣の生息地域となり作物を荒らしてしまったり、傾斜地にある場合には大規模な土砂災害が起こる危険性が高くなったりするため、放置竹林を整備し、安全な山林を作る必要があります。

放置竹林を減らすためには竹材の利用価値を高め、「竹で商売ができる」状態にすることが必要です。
そのためにも、カラトリーなど身近なところでプラスチック製のものではなく竹製の製品を選んでみてはいかがでしょうか。

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