日本におけるジェンダーによる貧富の差~原因と解決に向けた取り組み

SDGsの1つ目の目標である「貧困をなくそう」。この目標は、他のSDGsの目標を達成するために欠かせないものなので、目標の1番目に掲げられています。
この貧困をなくそうという目標には7つのターゲットが設定されていて、そのターゲットの中にはジェンダーに関するものもあります。

貧困を無くすためのジェンダーに関する具体的な問題には、貧困状態にある人は男性より女性の方が多いということが挙げられます。
なぜ、男性より女性の方が貧困に陥っている比率が高いのでしょうか。

ここではジェンダーによる貧困の現状や、特に女性が貧困に陥る原因、ジェンダーによる貧富の差を無くすための取り組みについて解説していきます。

日本におけるジェンダーによる貧富の差の実態

日本におけるジェンダーによる貧富の差を見る場合には、相対的貧困という状態にあるかどうかといった点について男女の格差を見ていく必要があります。

相対的貧困とは、ある国(ここでは日本)の水準の中で比較した際に、大多数よりも貧しい状態にあることを指します。
所得で見た場合には、世帯の所得がその国の可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない状態にあることを言います。

厚生労働省の2015年(平成27年)の貧困ラインは熊本県を除いた地域では122万円であり、相対的貧困に陥っている人の割合は15.6%となっています。
一時期高くなっていた子どもの貧困率はやや低下しているものの、大人が1人しかいない子どもがいる現役世帯の貧困率は50.8%と過半数を超えており、このような世帯の多くは母子家庭となっています。

子どもがいる世帯の1世帯当たりの平均所得金額は707.8万円となっていますが、母子家庭の場合には270.3万円となっており、この所得金額には社会保障費が含まれているため、純粋に母親の所得のみをみてみると213.8万円となっています。

また、55歳から74歳までの自立した高齢の男女の年間収入を見てみると、こちらも65歳から74歳の女性単身者世帯では193.7万円、同男性単身者世帯では278.74万円となっており、女性の方が男性よりも85.1万円低くなっています。
55歳から64歳までの場合は、女性では265.0万円、男性では291.1万円となっており、やはり女性の年間収入のほうが低くなっています。

ジェンダー、特に女性が貧困に陥る原因

前章で日本におけるジェンダー、男女の収入の違いについて解説してきましたが、なぜこのように性差によって収入が大きく違うのでしょうか。
ここでは、女性の年収が低く貧困に陥ってしまう原因について解説していきます。

男性よりも家事に費やす時間が多い

家事に費やす時間のことを、家事関連時間といいます。

女性は男性よりもこの家事関連時間が多いため、仕事をしていても長時間の残業などを行うことができずに男性と比べて収入が低くなる傾向があります。
総務省の平成28年の社会生活基本調査によると、男性の家事関連時間は増加し男女間の格差は減少していますが、それでもまだまだ男女平等とはいいがたい状態になっています。

管理職など指導的立場で働く女性が少ない

課長相当職以上の指導的地位についている女性や、専門的あるいは技術的職業のうち専門性が高い職業に占める女性の割合が低いということも、女性が貧困に陥りやすい理由のひとつです。

その理由は、勤続年数の差にあります。
女性が男性と比較して勤続年数が短い傾向がある理由には、出産による職場からの離脱が挙げられます。
また、依然として女性に対する差別的な扱いをする企業も少なくないため、女性であるというだけで役職への起用が妨げられることもあります。

非正規雇用の女性が多い

女性の場合、非正規雇用で働く人の割合が男性よりも多くなっています。

2017年における非正規雇用の男女比を見てみると、男性は21.9%であるのに対して女性は55.5%と働く女性の半数以上が非正規雇用で働いており、男性の非正規雇用の割合を大きく上回っていることが分かります。

非正規雇用と正規雇用を比較すると賃金に大きな差が生じるため、非正規雇用の女性は貧困に陥りやすくなってしまいます。

大学などの高等教育を受けられる女性が男性よりも少ない

内閣府が発表した2013年度版「男女共同参画白書」によると、女性の高等教育在学率は56.2%となっており、他の先進国と比較して低い水準となっていることが明らかになりました。

大学への進学率を見てみると、男性が55.6%であるのに対して女性は45.8%となっています。
ほとんどの企業では新卒で入社する場合には最終学歴によって初任給が決められ、その後の昇給や賞与などにも最終学歴が影響を与えることがあるため、高等教育を受けられなかった女性は収入が低くなる傾向があります。

貧困の連鎖

貧困の連鎖とは、低所得世帯の子どもたちが将来低所得者になる可能性が高く、貧困から抜け出すことができない状態のことを言います。

子どもたちを取り巻く環境を大きく左右するものは学歴であり、十分な高等教育を受けることができないと十分な収入を得られる仕事に就くことが難しいというのが日本の現状です。しかし、低所得世帯では学業に費やす費用を捻出することが難しいため、子どもが高等教育を受けることが困難であり、結果として低い収入しか得ることができない仕事に就かざるを得ないという現実があります。

特に女子に関しては、低所得家庭であるかどうかに関わらず高等教育を受けさせる必要はないと考える人や、高等教育を受けさせたくてもその資金が用意できないケースなどがあり、将来的に女性の貧困に陥る可能性が高くなります。

ジェンダーによる貧富の差をなくすための取り組み

ジェンダーにより貧富の差が生まれやすいとうことは、ここまでの解説でお分かりいただけたと思います。
では、この貧富の差を解消するためにどのような取り組みが行われているのでしょうか。

ここでは、ジェンダーによる貧富の差を無くすための取り組みについて解説していきます。

子どもや若者の自立する力を育てる取り組み

母子家庭など経済的に厳しい状況で育つ子どもを自立させるために、支援が必要な場合は行政サービスを十分に行き届かせること、複数の困難な事情を抱えているものが多いため、ひとりひとりに寄り添った支援を行うこと、一人で過ごす時間が多い子どもに対して学習支援を含めた支援を行うこと、安定した就労を実現させることなどといった方法で支援を行っています。

このような支援を行うことで、母子家庭の貧困状態を改善するとともに子どもへの貧困の連鎖を断ち切り、子どもや若者の自立する力を育てています。

ひとり親家庭でも安心して生活できる環境づくり

母子家庭を含めたひとり親家庭に対して、自立支援員による相談支援を行ったり、ヘルパーの派遣や保育所等への優先入所を行ったりしています。
このような取り組みにより、母子家庭のであっても母親が安心して働くことができる環境を整え、母子家庭の貧困を無くす一助としています。

女性活躍推進法の整備

女性活躍推進法とは、平成27年8月28日に国会で成立した法律で、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表および女性の職業計画の公表を事業主(国や地方公共団体、民間企業等)に義務付けた法律のことです。

この法律が制定されたことにより、女性が活躍できる企業が増えることが期待されています。それにより、ジェンダーの違いにより低収入に悩む女性も減少していくことが期待されます。

まとめ

ここまで、女性の貧困の現状とその原因、問題解決のための日本における取組について解説してきました。

女性が男性よりも優れたキャリアを築きにくい理由としては、出産による職場からの短期または長期に及ぶ離脱や辞職があること、また一度辞職してしまうと正規雇用で働くことが難しいということがお分かりいただけたと思います。

このような出産によるキャリアの中断を、「マミートラック」といいます。
このマミートラックによってキャリアが中断されても、指導的立場への登用の道が閉ざされないシステム作りが今後急がれます。
そのためには、男性も家事・育児に費やす時間を増やす必要が出てきます。

また、女性であっても高等教育を受けることで男性と同等の収入を得ることも不可能ではないため、女子だけではなく男子でも「勉強したいけれどお金がないのでできない」という状況になることが無いように国などが支援を行い、高等教育を受ける機会をすべての子どもに与えることで、女性の貧困問題の解決の助けになるでしょう。

最新情報をチェックしよう!