現代社会では、年齢や性別、障がいの有無に関わらず、多様な人々が生活を共にしています。その中で、あらゆる人が快適に使える「ユニバーサルデザイン(UD)」が、近年のビジネスや製品設計において重要なコンセプトとなっています。
本記事では、ユニバーサルデザインとは何か、その意義やSDGsとの関係、さらに実際の企業事例を解説します。多様性を重要視したビジネスの可能性について考えてみましょう。
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとは「すべての人が使いやすいデザイン」を目指す理念です。年齢や性別、身体的な違いを問わず、誰もが簡単に操作し、快適に利用できるよう設計されたものを指します。
「Universal(普遍的な)」と「Design(設計)」の頭文字を取って「UD(ユーディー)」と呼ぶこともあります。
例えば、ピクトグラム(絵文字)もユニバーサルデザインです。言葉の壁を超えて情報を伝える工夫がされているため、観光客や外国人住民にとっても、安心して施設を利用することが可能です。
また、大手の看板やメニュー、駅の標識などを見ると、白地に黒文字や、赤字に白文字など、はっきりとして読みやすいと感じたことがあるのではないでしょうか。多くの施設やサービスが採用するフォントは「誰もが見やすい文字」を使用したり、文字サイズも大きくして視力に不安のある方でも読みやすくしたりなど、工夫されています。
このように、社会の中には、ユニバーサルデザインが反映されているものが増えています。
バリアフリーとの違いは
「ユニバーサルデザイン」と聞くと、「バリアフリーとは何が違うのか」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
これらの二つの言葉はよく似ていますが、目的やアプローチが異なります。
バリアフリーは「障害物(バリア)」を取り除くことを目的とし、高齢者や障がい者が困難なく生活できる環境を整えるためのものです。一方、ユニバーサルデザインは、そもそも障害物を設けず、あらゆる人が最初から使いやすい製品や環境を目指します。
つまり、ユニバーサルデザインはバリアフリーの一歩先を目指すアプローチであり、社会の多様性を前提にしたデザインです。
なぜユニバーサルデザインが必要なのか
ユニバーサルデザインは、誰もが快適に過ごすために必要なデザインです。性別や年齢、障がいの有無に関わらず利用できる商品やサービスは、今後の社会において必要性が高いものといえます。
また、ユニバーサルデザインは、SDGs(持続可能な開発目標)の精神とも密接に関係しています。SDGsで重要視されている「誰一人取り残さない」という理念は、ユニバーサルデザインの基盤にもなっているのです。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」
目標4は、あらゆる人が教育の機会を得られる社会を目指しています。教育施設や教材に、ユニバーサルデザインを取り入れることで、子どもから高齢者、障がいのある人までが等しく学べる環境が整います。
例えば、文字が見やすい教科書や、どこに書くべきかわかりやすいノートなど、すべての人にとっての「質の高い教育」を支える一助となります。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」
多様性を認め、不平等のない社会を実現する目標10は、ユニバーサルデザインのコンセプトと合致します。
例えば、車椅子でも手軽に着用できるようにデザインされた着物は、障がいの有無に関係なく自由にオシャレを楽しむことが可能です。
ユニバーサルデザインを取り入れた施設やサービス、商品が増えることは性別、年齢、障がいの有無、国籍、宗教などの差異が生活の障害とならない社会、つまり平等で包摂的な社会を実現する手助けとなるでしょう。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」
街の看板や施設などにもユニバーサルデザインは採用されているため、目標11は「誰もが住みやすいまちづくり」と大きく関係しているといえます。
例えば、視覚や聴覚に障がいのある人も使いやすい信号機、子どもから高齢者まで安心して歩ける歩道設計などは、ユニバーサルデザインの観点から生まれた都市計画の一例です。
ユニバーサルデザインは、社会的弱者の声にも寄り添う理念といえます。誰もが豊かに暮らすためには、ユニバーサルデザインは必要でしょう。
人にやさしい商品・企業8選
ここからは、ユニバーサルデザインの理念を実践し、誰もが使いやすい製品やサービスを提供している企業を紹介します。以下の企業の取り組みは、ビジネスの可能性を広げると同時に、商品の「使いやすさ」と消費者への「やさしさ」を形にしています。
①パナソニック・スマイル浴槽
スマイル浴槽は、加齢による身体の変化を配慮したものです。
またぐ箇所の高さが5cm低いため、出入りするときに足を高く上げる必要がありません。浴槽のフチは平滑であるため、出入りのときに座ることも可能です。
バスタイムの動きがスムーズで、ラクに入浴できる安心設計になっています。
参照:https://holdings.panasonic/jp/corporate/universal-design.html
参照:https://www.g-mark.org/gallery/winners/9d84d4a9-803d-11ed-862b-0242ac130002
②キユーピー
キユーピーの商品開発において、以下のユニバーサルデザインの原則を取り入れています。
- 誰でも公平に利用できる
- 使う上で自由度が高い
- 使い方が簡単ですぐに分かる
- 必要な情報がすぐに理解できる
- うっかりミスや危険につながらない
- 無理な姿勢を取ることなく少ない力で楽に使用できる
- アクセスしやすいスペースと大きさの確保
- 人体に危害を加えない
- 環境に配慮している
- 利便性に優れている
(引用:https://www.kewpie.com/sustainability/dietary-lifestyle/universal/)
特に、食品パッケージに対する工夫が際立っています。例えば、キユーピー ドレッシングは「ボトルの中央にくびれをつけて握りやすくしたり、左回しをすれば一度でキャップを開けられるようにしたりなど、「軽さ・開けやすさ・持ちやすさ・注ぎやすさ・分別しやすさ・環境配慮」を実現したオリジナルの容器を採用しています。
また、ジャムでは、瓶の上部を多面体にすることで、握りやすさと開けやすさを実現しました。
参照:https://www.kewpie.com/sustainability/dietary-lifestyle/universal/
③三菱電機・三菱ジャー炊飯器 WiFiらく楽炊飯アプリ
「三菱ジャー炊飯器 WiFiらく楽炊飯アプリ」には詳細な音声ガイドを搭載しているため、炊飯器と会話しながら炊飯の設定ができます。
画面の内容を読み上げたり手順を説明したりすることで、健常者から視覚障がい者まで、幅広い方が快適に調理できるようになりました。
参照:https://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/randd/list/design/universal_des/uni_des1.html
④江崎グリコ・炊き込み御膳
江崎グリコは、「炊き込み御膳」の商品パッケージを刷新し、国内の食品メーカーでユニバーサルデザインについて第三者による認証を取得しました。
イラスト、色や文字などを工夫しながら「見やすく、わかりやすく、伝わりやすい」を追求し、消費者に「伝わるデザイン」へリニューアルしています。
参照:https://www.glico.com/jp/newscenter/pressrelease/44409/
⑤コクヨ・青色シートで覚える暗記用ペンセット
コクヨの「青色シートで覚える暗記用ペンセット」は、集中実感効果が期待される青色のシート、オレンジ色のマーカー、水色のペンを組み合わせた暗記用ペンセットです。
これまでの暗記用品は、緑色や青色のマーカーを黒文字の上に引くため「文字が読みにくい
」「覚えたい場所が目立たない」「少数派の色覚特性をもつ方は文字が見えてしまう」などという課題がありました。誰もが使いやすい配色を目指し、5,000ぐらいの組み合わせをテストした末に完成しました。
カラーユニバーサルデザインへの配慮が、あらゆる学習者に対応するツールとして評価されています。
参照:https://www.kokuyo.co.jp/sustainability/howsdesign/torikumi_0017.html
⑥HONESTIE・表裏前後がないアンダーウェア
HONESTIEのアンダーウェアは、表裏や前後がなく、どの向きでも正しく着用できるデザインが特徴です。この設計は子どもや高齢者、障がいのある方にも配慮しており、全ての人が違和感なく着られるシルエットを実現しました。
また速乾性や抗菌性にもこだわっています。嫌な生乾きや汗の匂いも防ぐため、一日中気持ちよく着続けることが可能です。
参照:https://honesties.jp/?srsltid=AfmBOorHHGKNYCuW4yreBrJBMIwOwBDDrmetIWwJwrhiv8EsNkKRUD8-
⑦idobutton・ナイトウェア・工夫されたボタン
idobuttonのナイトウェアには、特別に設計されたボタンが使用されています。まだ手先が器用に動かない幼い子どもでも、通常のボタンよりも簡単に留めたり外したりすることが可能です。
ハードルが高いボタン留めが自分にもできたと実感することは、子どもの自信にも繋がります。「またやってみたい」「他のこともできるかも」など、子どものやる気を引き出すことも期待できるでしょう。
参照:https://ido-button.com/aboutus
⑧Zubits・スニーカー
Zubitsのスニーカーは、靴紐にマグネット式の留め具を取り付けています。そのため、靴紐を結ぶ手間がなく、簡単に履くことが可能です。
また、かかとを上げればラクに着脱できるようにも設計されています。Zubitsは、ファッション性と機能性を両立し、小学生や妊婦さん、お年寄など、幅広い世代の方に愛されるユニバーサルデザインを実現しています。
まとめ
各企業の事例を通して、ユニバーサルデザインがいかに実際の生活を便利にし、多様な人々のニーズに応えているかが見えてきました。
ユニバーサルデザインはSDGsとも強く結びついており、ビジネスの社会的な価値を高める重要な要素です。
多様な消費者に対応することが企業のブランド力の向上や、新たな市場開拓にもつながります。ユニバーサルデザインを積極的に採用する企業が増えることで、あらゆる人々が快適に生活できる社会の実現が期待されます。
少数派の困りごとに寄り添うユニバーサルデザインの必要性は、今後一層高まるでしょう。