木造建築といえば寺社仏閣などにある五重塔などを除けば、2階または3階建て程度までの低層の戸建て住宅や低層アパートを思い浮かべることがほとんどでしょう。
しかし、現在では木材を使用した建築物はそのような低層建築だけではなく、技術の発展により高層建築も建築できるようになりました。
今まで高層ビルといえば鉄筋コンクリート造が当たり前でしたが、今後は木造の高層ビルが徐々に増えていくことが予想されます。
ここでは、SDGsの15つ目の目標である「陸の豊かさを守ろう」を達成する手段として木造高層建築・木造高層ビルが果たす役割について解説していきます。
木材が高層建築の建材として利用できるようになった理由
今までの木材では、高層建築の安全性を保つために必要な高い耐震性と耐火性という2つの条件を満たすことはできませんでした。
しかし、木材加工技術の進化によりこの2つの性能を高めることができるようになり、その結果として木造高層ビルの建築が可能になったのです。
この技術は、「エンジニアリングウッド」と呼ばれるもので、壁に使う木材は細長い木の板を並べた層を木の繊維が直交するように互い違いに何層も重ねて圧着したCLTという建材を使用し、柱には燃えしろ層と呼ばれる火災が起きた時に燃えて炭化し熱を柱の内部に通しにくくする層と、さらにその内側には石膏の熱を吸収して耐火性を高める層、そして中心には構造部分となる層の3層により成り立つ建材を用いることで、木造の高層建築物の建築が可能になりました。
壁に使用する建材は縦と横、どちらからの力にも耐えることができるためコンクリートと同じぐらいの強度で建物を支えることが可能です。
また柱に使用する建材は外側の木と2層目の石膏の層が、中心の構造部分の木材を火災などの熱から守るため、高い耐火性を持ち建物を支え続けることができます。
このような木材の加工技術により、木造高層建築の建設が可能になったのです。
木材を高層建築の建材として使用するメリット
日本では特に都市部で高層建築の需要が高くなっていますが、その建材として使用する部材の原料のほとんどを輸入に頼っているのが現状です。
しかし、日本は林業が盛んであるため木造建築に使用する木材として国内産のものを使用することができ、日本の林業のさらなる活性化や山林の荒廃を防止することができるというメリットが期待できます。
また、山林の荒廃を整備することで荒廃を防ぐことができ、地球温暖化ガスを吸収する木の健全な育成を行うことができます。
さらに木は木材に加工しても炭素を蓄え続けるため、高層建築を建築する際に木材を使用することができるようになると、木や木材による地球温暖化ガスの吸収量を増やすことができるというメリットもあります。
木造高層建築は建物の重量が鉄骨造やRC造よりも軽量であるため、基礎工事もこれらの建物と比較すると簡易なもので済み、その分コストカットを行うことが可能です。
木材を使用した高層建築は、鉄骨造やRC造の建物と比較して断熱性が高いため、冷暖房などのランニングコストも低く抑えることができます。
このように木造高層建築には、鉄骨造やRC造にはないメリットが非常に多くあります。
木材と鋼材の地球温暖化ガス排出量の違い
高層建築に関わらず建築資材を製造する際には、二酸化炭素などの地球温暖化ガスが排出されます。
その量は鋼材1㎡を作成する際には、5324㎏にも及びます。一方木の建材である天然乾燥製材や人工乾燥製材、合板を作成する際に放出される二酸化炭素の量は平均で124㎏となっています。
このように、木材は生産する際に鋼材と比較すると約43分の1の量の二酸化炭素しか排出しないため、木を利用した建築物を鋼材などを利用した建築物に置き換えることで、二酸化炭素の排出量を大きく削減できるのです。(林野庁のデータ<915395B62E706466> (maff.go.jp)より)
木で高層ビルを始めとした建築物を建てることには、他にもメリットがあります。
木材は二酸化炭素を固定化するため、地球温暖化防止に非常に役に立ちます。
しかし、木による二酸化炭素の吸収量は減少の一途をたどっています。
その理由は、建材として多く使われるヒノキやスギの樹齢が20年以上経過したものが多くなり、それに伴って二酸化炭素の吸収量が低下しているためです。
このようなヒノキやスギはほとんどが人工的に植林されたものですが、この人工林の半数以上を樹齢50年以上の二酸化炭素の吸収量が少なくなった木が占めています。
そのため、このままでは日本の人工林が吸収する二酸化炭素の量は徐々に減少していくことが予想されます。
人工林の二酸化炭素吸収量を上げるために、成熟して吸収量が減少した木材を積極的に建材などに利用し、若返りを図ることで木による二酸化炭素の吸収量を上げることができるのです。
そのため、より多くの木材を使用する木造高層ビルの建築は地球温暖化防止にも非常に大きな役割を果たすのです。
木造ビル事例
ここでは、大林組と竹中工務店の木造高層ビルの建築事例を紹介していきます。
大林組
株式会社大林組は、大林グループの持続的な成長に向けた次世代研修施設として、日本発でなおかつ世界にも類を見ない柱、梁、床、壁のすべてに木材を使用した、構造準木材耐火建築の建築に着手しました。
この研修施設は、自由闊達なコミュニケーションを誘発することにより、新たなイノベーションや企業文化を生み出すことをコンセプトとしています。
木質化した空間は利用者にリラクゼーション効果をもたらし、天然の調湿効果に加えて光や風、香りなど自然を取り込んだデザインや技術が快適性を向上させることで健康を高め、研修効果の向上を図っています。
また大林組が開発したスマートビルマネジメントシステムの「Wellness BOX」の利用者のバイタルデータを関連付けて、そのデータに基づいた快適な研修と宿泊環境を提供する計画になっています。
竹中工務店
株式会社竹中工務店と三井不動産株式会社は、東京都中央区日本橋一丁目に、木造高層建築として国内最大かつ最高層の地上17階建ての賃貸オフィスビルの新築計画の検討に着手しており、今後は詳細の検討を進めて2023年に着工し2025年の竣工を目指しています。
この高層木造ビル建築計画には、建物の主要部分に耐火集成材や最先端の耐火・木造技術を導入して建築される予定となっています。
使用する木材は三井不動産が保有する森林のものをはじめとした国産の木材を積極的に使用することで、建築資材の国内での自給自足および森林資源と地域経済の持続可能な循環を実現させ、環境にやさしく二酸化炭素排出量の削減にも寄与するプロジェクトとなっています。
木造高層建築の今後の課題
林業の振興や二酸化炭素排出量削減などのメリットがある木造高層建築ですが、今後に課題があります。
その課題とは、コストです。
現在の木造高層建築の建築コストは鉄骨で同じ建物を建築する場合と比較すると、2割ほど高額になってしまいます。
そのため、ビジネスとして成立させていくことは現在のところ困難であると言えるでしょう。
しかし、今後は生産性の追求のみではなく環境に掛ける負担の軽減という観点も非常に重要視されるポイントとなってくることが予想されます。
また、木造高層建築に使用される建材などの研究が進むにつれて、このコストの問題も徐々に解消されていくでしょう。
まとめ
ここまで、木造高層建築のメリットや今後の課題について解説してきました。
木造高層建築は、SDGsの15つ目の目標である「陸の豊かさを守ろう」の目標達成のための手段になるとともに、二酸化炭素排出量の削減にも役立つことがお分かりいただけたと思います。
課題はコストですが、これも木造高層建築に必要な技術に関する研究が進むにつれて解消されると考えられるため、木造高層建築には今後期待と注目が集まると考えることができるでしょう。